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『擬態』北方謙三

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文藝春秋
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虚無の輪郭。

ふと。ハードボイルドが読みたくなった。
昔。ものすごくハマってたのだけれど。
そういえば、もう何年も読んでいない。

日本の作家だったら。
藤原伊織とか、逢坂 剛、志水辰夫、大沢在昌、原尞、
白川道・・・まだあると思うけど。
思い出せたのは、この辺り。

海外の作家だったら。
ローレンス・ブロック、ダシール・ハメット、
レイモンド・チャンドラー、ギャビン・ライアル、
ドナルド・E・ウェストレイク、ジェイムズ・エルロイ、
マイクル・コナリー・・・こちらも、まだあるはず。

やはり日本の作家の方が少ないかな?
だったら未読のハードボイルド作家を開拓してみよう、と。
検索して、何冊かチョイスしたうちの一冊が、この本。

うん。これは。面白い。
正直、期待してたのとは傾向が違ったけど。

主人公の自己破壊衝動がストーリーを牽引する。
壊れ続けていくヒーローが魅力的なんですが。
痛快とか渋いとかカッコいいとか男の美学・・・とは言えない。

行き止まりの道ばかりを選んでいる。
なのに妙に冷静で、ストイックで。頭も良くて。強くて。
一見、自暴自棄にも見えるけれど、そうではない。
あ、やっぱりカッコいいんだわ。

 自分の内部から、なにかが欠け落ちてしまったと感じることがあったが、それも立原にとってはどうでもいいことだった。欠落したものを補うためになにかをしようとは思わないし、補えるのなら欠落などとは言わないのだ。

立原っていうのが主人公なんですけれどね。
なんか。この感覚はわかるなぁ。
いや、過去形かな。もしかしたら。

欠け落ちてしまったと感じる地点を通り過ぎてしまった。
・・・そんな気がするのです。私の場合。
だから、自らの欠落と共に爆走していく立原が眩しくて。

妙に共感できる部分がある。
立原は時代の閉塞感と真正面から向き合ってしまったんだな。
みんな、目を逸らして誤摩化して生きていくのに。

たぶん。
立原本人もそうするつもりでいたけれど、出来なかった。
それは、たまたま、だとも言えるのだろう。

そして。今はまた。時代は変った、とも思う。
良くも悪くも。生きる人間の「意識」も。

現代のハードボイルドのヒーロー像はどうなるんだろう。
もしくはどうなっているんだろう。
そもそも。ハードボイルドってなんだっけ。

暴力的・反道徳的な内容を、批判を加えず、
客観的で簡潔な描写で記述する手法・文体・・・ですか?

それって、私は「ノワール」だと思ってましたが。
あ。「ノワール」は「犯罪スリラー」という方が近いか。

推理小説、探偵小説、冒険小説あたりとの境界線が曖昧ですよね。
だいたい、ハードボイルドって一匹狼な探偵ってイメージが強い。
(チャンドラーのせいというか、おかげというか)

馳 星周あたりは私にはハードボイルドには思えないんです。
ノワール要素が強いとあまり好きでないだけかも。
その点、本作はそこそこノワール系かもしれない。

まぁでも。
ハードボイルドに欠かせないのは。
クールでドライな表現、というところが一番だろう。
その筆致の感触が結局、人を魅了するのだ。

あとは。そこに「疾走感」があれば花丸。

というわけで、本書はハードボイルドの傑作、と云えるかな。
終盤の展開には少し、不満のようなものはあるけれど。

(2018.5.2)
蛇足とも言えそうな、池上冬樹の長い解説。
しかし、ハードボイルドの変遷を辿れたのは良かった。
私はそうしてみると、結構名作は読んでいるのだな。
解説の中で語られた作品はほぼ既読だった(ちょっと得意げ)。
「檻」が北方の最高傑作とのことなので今度読んでみよう。
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