Loading…
 

風の耳たぶ  灰谷健次郎

4043520336
角川文庫
Amazon

やや頑固者の画家の夫と、少女のような愛らしさを失なわぬ妻、
という仲良しの老夫婦が小旅行をする。
旧友、親戚と語らい、街、史跡、思い出の場所を訪ね・・・。

小学生の時に「兎の眼」を読んで以来の灰谷さん。
それは、子供心にとても重くてしんどい本で、
読むたびに、消化できない熱い塊が胸のなかに残って苦しくて、
それなのに、繰り返し、繰り返し、何十回も読んだっけ。

好き、というのとは違った。
ふわふわときれいなものが大好きな、夢見がちな女の子にとって、
灰谷氏の作品は、怖いほどに厳しい現実だったから。

ただ、子供にも、わかるのだ。
ここには、すごく大切なことが書かれている、って。

さて。本作の話に戻って。
主人公が老夫婦とは、驚いた。
しかも、ひたすら、いい人しか、登場しないし。
含蓄のある言葉が多すぎて、かえって輪郭が薄れている気もする。
ほんと。書き抜くの不可能なほど、たくさん。

老夫婦の友人の孫の薫平君ってね、
賢くて爽やかな、出来すぎな男の子が登場するんだけど。
著者としては、導く者があれば、こういう子が育つと言いたいらしい。
そうかな。そうだね。そう信じたいよね。

優しく、やわらかな、穏やかな光に包まれた印象の小説で、
まるで理想の老夫婦とその余生を描いているかのようだけど、
そこに至るまでの厳しい道のりのことを、見落としてはいけない。

旅の道中に訪れた五合庵で語られる良寛の生涯に、
そして薫平少年の若々しい真っ直ぐな言葉に託して、
「自分を鍛える」ということの重要性と厳しさが説かれる。

薫平君は、言う。
「ぼくも勉強になる。籐三さんやじいちゃんのいうことをきいていると、きびしいなぁと思うけど、そのきびしいところを、いつも見つめていなくちゃいけないなと思えて」

ああそうだ。幼い私も、同じように感じて灰谷さんの本を読んでいた。
なのに、大人になってからの方が、
きびしいことから目をそらすのが上手くなり、その言い訳も堂に入って、
自分自身すら平気で欺くようになるのだ。

灰谷さんも彼の作品の登場人物たちも、きびしいところを見つめ続けて、
その上でなお、健やかな若々しい心を保っている。

私も、そうありたいな。

(2010.7.1)

  

プロフィール

Author:彩月氷香

とにかく本が好き
読書感想がメインですが
時々、写真や雑記も。

*初めましてのご挨拶
*ブログタイトルの由来

<別館のご案内>
Instagram
99%、花の写真です。

moleskine絵日記
ちいさな絵日記。

表示中の記事

  • 灰谷健次郎
2010年07月18日 (日)
風の耳たぶ  灰谷健次郎

カテゴリ

最新コメント

データ取得中...

月別アーカイブ

***