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凍  沢木耕太郎  

Posted by 彩月氷香 on 10.2010 沢木耕太郎   0 comments   0 trackback
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新潮文庫
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登山家の夫婦を描いたノンフィクション。

読んでいて、身が震えた。
著者の創意に満ちた作風と取材力かつ卓越した文章力ゆえに、
片時も気の抜けぬ臨場感と緊迫感が鮮烈な力強さで再現されているが、
そうでなくとも、文章に描かれていない現実の凄みが、びしびしと
空気を振動させるほどに伝わってくる。

強い、二人である。とても自分と同じ「人間」とは思えない。
肉体も精神も、私の想像を遥かに超えた強靭さ。

なぜ、そうまでして山に登る?
登ったことのない自分にはわからない。
登ってもおそらく、わからない。

極限状態にある精神、かつ精神と一体化した肉体、
否、それらをひっくるめた自分自身丸ごと全部、が捉えるもの。
言葉には、到底言い表せない、何か。

それは感情ではない。感動でもない。
もっと深い、もっと高い、もっと広い。そもそも測りようがない。
・・・自我の消滅するところに生まれるもの。

山野井(主人公)も妙子(その妻)も、同じ場所にいても、
それぞれ感じていることも考えていることも違う。
夫婦の一体感なんていう甘い幻想は全く、第三者からも見て取れない。

それぞれ、自分ひとりだけの宇宙があるのだ。

宇宙という言葉が適切とも思えないのだが、仮にその言葉を使うとして、
それは広大すぎて掴み切れず、意識に捉えることもできないが、
ごくごく稀に、自分とつながっている実感を抱けるものなのだ。
・・・絶望に限りなく近い、永遠の喪失感とともに。

彼らのように命がけで好きなことをして生きているわけではない私にも、
時にはその瞬間が訪れる。
幸せというのではなく、もっと圧倒的な、自分が生きているという実感。

充実感でも、充足感でもない、ただただ純粋に濁りなく、
「生きている」と感じる時。
その時間が、「時」とも認識されず、果てしなく広がって全身を包む。
自我を失いつつ、自分を感じることができる。

私は他に呼びようがないので、それを「光」と呼ぶ。
全身で感じることのできる、細胞の隅々にまで降り注ぐ恵み。
生き返った気持ちになる。

山に登るのは、まさに彼らにとって生きることそのものなのだ。
そのために、たとえ手足を失おうとも。

心にうずまく、溢れるような光の舞いを、説明することは難しい。
この本を読んで私が感じたものを言葉にできないもどかしさと、
それも当然という諦めと、そういう表現の欲求なんて捨てて、
純粋に余韻に浸っていたい気持ちと・・・。

脳裏に焼きつく雪山の厳しい美しさを背景に、
ざわざわとした静けさが、いつまでも消えない。

私にとっての「山」は、どこにあるのだろう。

(2009.10.12)
沢木耕太郎氏の本は色々手に取りましたが、
今のところ、私が一番好きな彼の作品です。


有名であれ無名であれ  沢木耕太郎

Posted by 彩月氷香 on 25.2010 沢木耕太郎   2 comments   0 trackback
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文藝春秋
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沢木耕太郎のインタビュー集。
ひとつひとつが、一人一人が、心に残る。

一流と呼ばれる人々の、どれだけ厳しい人生を生きていることか。
怖さを感じる瞬間が幾度もあった。

文句なしに、面白かった。

(2004.8.10)
沢木耕太郎は結構読んでいます。なのに感想が残っていないのは何故?
ノンフィクションの感想は書き辛いのでしょう、たぶん。
「深夜特急」はテッパンですが、「凍」という作品が私のイチオシ。
うーん、感想書いてるはずだけどな、おかしいな。探してみよう。



  

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