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猫と庄造と二人のおんな   谷崎潤一郎

4101005052
新潮文庫
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リリーという猫の、なんと全き猫らしさよ。

ひらりひらりと身をかわして、
人間の愛情なんて鬱陶しいと言わんばかりにツンと澄まして、
そっぽを向いた次の瞬間には、するするっと、
身のこなしの優雅さを見せつけながら近づいてきて、
あなただけは特別、という顔つきでじーっとこちらを見つめ、
ゴロゴロと喉を鳴らして甘えかかる・・・。

そんな様子が目の前に、くっきりと浮かび上がる。
あでやかに生き生きと、息を呑むほど、見事な描写。

そのリリーを溺愛する庄造という、しょうもない、
あかんタレな男と、その男に捨てられた可愛げのない元妻、
身持ちの悪い若い新妻、計算高い庄造の母。

この人間模様、ぷんぷんと谷崎文学の香りを放ちつつ、
彼の作品の中では珍しく、のびのびと柔らかい空気を纏っている。

魔性と言われる猫にも似た、魔物めいた香気を持つ文章の魅力は、
この作品にも健在ながら、「春琴抄」や「痴人の愛」「細雪」などの、
ねっとりした豪奢さとは異なり、まろやかな愛らしさに包まれている。

道端に寝転がる猫の目線で地べたに近い世界を描いても、
高貴さを漂わせてしまうくらいの、谷崎の卓越した文章力に、
私は酔いしれながら、感嘆することしきりに、幾度も幾度も、
深い深いため息をつきながら、読んだ。

しなやかで艶やかで、けれどすっきりとした仕立て、
という極上の文章が精緻に紡ぎだすものが、
美とは遠く離れた凡庸な人間模様であるという皮肉。

ゆえにこそ、
人間のズルさ、浅ましさが、哀れにいじましくも見えてきて、
ほろりと優しい気持ちになれるのかもしれない。

(2010.9.21)
「すぐ読めて満足感あり」のお題に寄せて頂いたなかの一冊。
空花さん、素敵な出会いをありがとうございます。


  

プロフィール

Author:彩月氷香

とにかく本が好き
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時々、写真や雑記も。

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