10歳の少女が誘拐された。同時に、二人。
とある田舎町で、クリスマスの近い日に。
おそらく、少女たちは還らない。
過去にも還ってこなかった・・・いいえ、物言わぬ姿で、
還ってきたのだ・・・クリスマスの当日に!
また悪夢が甦る。15年前、犯人は投獄されたはずなのに。
クリスマスまでに、何としても少女たちを見つけたいと。
そう願い、奮闘する人々・・・それぞれの抱えている過去。
深い傷、癒されることのない傷・・・敢えて自らを罰するかのように、
その傷を直視し続けて、生きてきた人々。みな、どこか狂っている。
個々が抱える闇が、読む者の心に迫る。
重い。暗い。救いがない。それでも生き延びた者たちは、
行き続けるために、闘い続けるほか、道がない。
どんな端役にも、その背景が鮮明に見える。
時に息苦しくさえ感じられる、細密な観察力と、
鋭い皮肉の利いた、刺々しい人物描写・・・そこに潜む弱き者への愛。
読んでいる間、辺りの光がすべて消え、
まるで深い蒼に染まった暗闇に籠もっているかのような、
不気味な静けさに包まれていた・・・。
その不穏な空気は、何故か居心地がいい。
作品全体に「詩」の響きがある。
ひたひたと迫る、決定的な破滅の影に怯えながら、
その世界の、神経を凍らせるような不吉な美しさに浸る・・・。
届かない祈りが、静かにこだまする。無数に。重なりあって。
抑制の利いた心理描写から、こぼれ落ちる感情が心に沁み透る。
そこへ、私も自分の祈りをそっと加える・・・。
そして、とうとうクリスマスの朝が来た。
(2010.12.12)
ラスト、息もつかせぬ急展開。
ミステリですが、サスペンス要素も濃い。
純粋なミステリファンの怒りを買う面もあるかもしれない。
でもとにかく、登場人物たちの魅力に抗えない。惹きこまれる。
エピローグでは、衝撃で言葉を失い、涙が止まらなくなった・・・。
人は何を拠り所に生きるだろう、かけがえのないものを失った時に?