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「伝える」ことと「伝わる」こと  中井久夫

4480093648
ちくま学芸文庫
Amazon

中井久夫氏のファンなら必読。

最初。これは選び間違った、と思いました。
自分でもどうかと思うぐらい心酔している中井先生ですが。
がっつり精神医学の話をされますと・・・
正直、ちょっと、しんどい。

というのも。精神病患者の話を読んでいると。
私自身がいかに、それに近いかということを実感するので。

会話や絵画についての話も面白い。
突飛ではないのにありふれていない思考。
読者を驚かせるような、飛躍した、鋭い指摘や論はなく。
しかし静かに、深く、ずしんと響いてくる発見や驚きがある。

ああ、そうだ。そうだった。
私も確かにそれを知っている、と思える。

懐かしい感じだけれど。ずっと会えていなかったものだ。
未知の旧友、という表現が似合うような。

いつも。
この人は「優しい」と思い。
そこに何度も「本物の」と付け加えたくなる。

この優しさはちっとも「甘く」ない。
けれど「厳しく」もない。
聡明な優しさというのだろうか。
甘さも厳しさも人を救うことはあるけれど。

中井氏の「聡明さ」は貴重だ。

自分を「外」から見直す視点をいつも提示してくれる。
たぶん、それが救いになるのだ。癒されるのだ。

と言いつつも数行ごとに「ああ」「うう」と唸り、
付箋を挟むことをやめられないわけですが・・・

患者に対して氏が語ることは。
不思議なくらいに普遍的で、広く活用できる知恵だ。

 作業療法は、多少いやいやながらやる、ということに意味があると筆者は思う。「働く」ということは、現実が課するものがみなそうであるように、多少とも「止むを得ず」「しょうがないから」することである。作業療法を面白くてたまらないようにしなければならないと考える必要は毛頭ない。「あまり面白くないことをやる」能力は、人間のもっとも成熟した(オトナになった)証拠とさえいって良い。

病気に人の場合は心身の警報が弱いか無視する修正が身についた人だということができるかもしれない。このマイナスを本人や周囲が「がんばれる人」とプラス評価してしまうことも問題だ。

とにかく。
氏の観察力、洞察力の、鋭さと穏やかさが両立しているところが好き。

妄想が患者を救っている一面に触れていたりする。
ここは、痺れました。痛いほど、わかる。

これが妄想の困ったところで、妄想を手放させるのは、溺れる者にそのすがっている板を離させるのに等しい。妄想はかさぶたのように自然に要らなくなって落ちるのでなければならない。さもなくば妄想は精神の寄生体のように、いつまでも持主から離れない。

禁煙についての話も面白い。
ご自身の経験から書いていて、しかも独善的でない。
詳細な記述とアドバイスである。

先生の「看護とは何か」の考え方も好きだ。
ひとことでいえば、一歩も二歩も深く、細やかなのだ。
そして、看護について語っても、
全ての職種に通じる「真髄」を語っている。

 医療では、ずいぶん患者に無理を強いる。実は獣医学のほうがずっと、相手である動物の意志を尊重している。それは、動物にがまんをさせるということがむずかしいからである。とらえられただけでハンガー・ストライキをして死ぬ動物も多い。食べ物が違うとか、寝床が違うだけで、拒絶反応をするペットも多い。だから獣医さんたちは徹底的に動物のほうに自分を合わせる。獣医さんたちには、動物の気持を察するためにたいへんこまやかな心のアンテナを持っておられる方が多い。看護学は、現状では、人間を相手にしている医師よりも、動物を相手にしている獣医のほうから学ぶところが大きいとさえ私は思う。

磯崎新氏との対談も良かった。
氏の神戸愛が溢れているのが何だか微笑ましい。
そして、専門外のことにも造型が深いことに感嘆。

ここで「額縁」について語るのが印象的。
そうだ。「額縁」は必要なんだ。
(詳細は省きます。すごくいい話なんだけど)

対談のしめくくりの言葉も、明言。

 都市も建築もあるいは人も生き物も、すべては、この時間がしみこむということなしには、つくられない。


「私の日本語作法」という章は必読(ファンとしては)。
氏の書き方が思いのほか、システマチックだ。
驚いたことに、私と似ているところも結構あった。

(でも・・・でも・・・出来上がりが違い過ぎる)

「翻訳に日本語らしさを出すには」の章も必読。
いや。隅々まで、必読。ああ。ため息しか出ない・・・

(2017.11.10)
またしても。「買わねばならぬ」この本は。
挟んだ付箋を剥がして数えたところ、82枚。
著者に。もっと若い頃に出会いたかったな。
辛かった日々をどれほど、救われたことだろう。
しかし「救われなかった日々」が私の財産とも言えるかな。

私の「本の世界」  中井久夫

4480095209
ちくま学芸文庫
Amazon

憧れの人の「読書」

私。お金はあればあるだけいいし。
綺麗なものが好きだから、自分も美人な方が嬉しいし。
育ちの良い人が好きだから、名家に生まれたかった。

でも。
実際にお金持ちが羨ましい?
美人が羨ましい?
名家出身が羨ましい?

・・・かと自らに問えば。

ま。そりゃそうだけど、それ程でもないのです。
だって、どれもそれなりにしんどいでしょ。

お金がないから気楽。
美人じゃないから気楽。
名家出身じゃないから気楽。

うん。持ってる人は持ってるものが重荷でもあるのよ。

しかし。「頭が良い」人だけは無条件に羨ましい。
頭がいいこともしんどいのは承知だが。
頭が悪くてもしんどく生きている私としては。
どうせ辛いにしても、もっと高次元の苦しみが欲しい。

自分が次元が低いとか自虐に走るつもりはないですが。
賢い頭が欲しいのです、切実に!

頭が良ければ。出世する可能性は高いし。
いわゆる成功者になれるかもしれませんが。
そういうことを求めているのではありません。

色んなことが「解る」頭が羨ましい。
もっと、「解りたい」んです。あらゆることを。

私、知識欲はある方なのですが。
その「欲」に「知力」がついていかないのです。

頭が良い人が好き、憧れといっても。
頭でっかちな人よりは、頭弱くても心の美しい人がいい。

知と情というざっくりした括りで言えば。
私は間違いなく、「情」に傾いてる人間ですが。
「情」が感じられる「知」というものを見ると心が震えます。

中井久夫氏の書いたものを読むと。
この人は抜群に賢い人だとわかります。
しかも、情に篤い、細やかな感性の人です。

ま。そういう人も時々はいらっしゃる。
ただ、私としては、知と情のバランスの良さ、
それに伴う行動力・・・ああ、こうなりたいという憧れの人です。

せめて。氏の「本の世界」を覗かせて頂き。
ちょこっとでも参考にさせてもらって。
私の弱い頭を鍛えようと本書を手に取りました。

ああ。しょっぱなから、ポール・ヴァレリーですか!

読めば読む程、ビシバシ打たれるというか。
完全にノックアウトです・・・

私の頭が悲鳴をあげそうな本がズラズラ並びます。
いや。理系がダメなのは散々自覚させられていますが。
文系寄りでも、き、きき、厳しい気配・・・

精神医学にそれほど興味があるわけでもないしなぁ。
ギリシャ語の詩の翻訳をされている中井氏は、
詩にも通暁しておられるんですが。
私、翻訳詩が超苦手だし・・・

先生の同輩、先輩、後輩の本の類いは。
そもそも、レアで手に入りにくい本ばかりだし・・・

中井先生の書く言葉、思考が大好きなのに。
先生の読むものを、私は読める頭がない。
なんかもう、哀しくなってきました。

元々の頭もそんなに良くないけれど。
若い時に頭を甘やかし過ぎました。
今更に、猛烈に、反省します。

え。う。ま。メゲズにメモった何冊かを読んでみます。

あと。数カ所。なるほどと思ったところ。

「書評の書評というのがあってもよいが、なぜないのだろうか」

リルケ「山に登った人は山の土を大量に持って帰りはしない。リンドウの花を一輪だけだ」

J・K・チェスタトン「凶者においては理性だけが狂っていない」

訓示めいた「すべきである」「してはならない」という表現がきわめて少ない。こういう表現はしばしば不十分な叙述、不十分な経験を補うために使われるものだ。

(2017.10.12)
中井氏の著作は、いつも読んで癒されるのに。
今回は苦行でした。頭がどうもついていかなくて。
でも。紹介された本の中から何とか読めそうなものを選び。
Amazonの欲しい物リストにとりあえず放り込んでおきました。
頭を鍛えるために、少しずつ読むつもりです。

こんなとき私はどうしてきたか  中井久夫

4260004573
医学書院
Amazon

ほんものの、優しさ。

勇気づけられ、励まされ、癒される。
たいせつなことを、無駄のない、しかも温かい言葉で綴る名手。

ああ、いいなぁ。いいなぁ。

ちゃんと「実践」が伴っている人なのだ。
こんなにも卓越した「思索」の人なのに。
見せびらかすことなく、「行動」している。

精神疾患の方たちに関わる看護者たちへの講義録ですが。
職業、立場に関わらず、「ひと」に響く言葉がぎっしり。

氏の言葉は。
どうして、こんなに心にしっかりと届いてくるのだろう。

病院の厳しい毎日に負けて、臨床を離れた医療者です。
しかしこの本を読んで、もう一度気負わずに、現場に戻りたいと感じました。

Amazonのレビューの言葉を勝手に引用しちゃいますが。
それほどの力がある、しかも「優しい」言葉。

思索する人は自戒の念が強過ぎるという印象がある。
中井氏は、よくよく考え尽くしている方なのに、
刺々しさや鬱々とした自虐や自嘲に陥ることがない。

しかし、悔いていることをずっと忘れない。
開き直りもせず、都合の悪いことと葬りもせず、美化もしない。
過大に自分を責めることもしない。

くよくよと悩み続けるのではない、ただ心に刻んで忘れない。
その潔さは、これだけの知性のある人だから可能な技だろうか。
いや。人柄だ、と言ってしまうのもあまりにもつまらなく。

本人が心掛けているという「プロ的エレガンス」が。
生き方に沁み透っている、というのがまだ近いかもしれない。

引用しても引用しても足りないほど、引用したくなる。
・・・ので、今回は自粛します。

(2017.6.21)
中井氏の本は、読み終えるといつも、付箋だらけ。
買えばいいと思いつつ、どの本も高いのが難点。
しかも。古本屋ではまず、見つかりません。
でも。コツコツと。買い集めるのも楽しいかもしれないな。

時のしずく  中井久夫

4622071223

みすず書房
Amazon

好きすぎる、この本。

付箋70枚。
もう、この本は買うべきである。

中井先生の考え方、文章、行動。
ため息しかでないくらい、憧れる。

氏のエッセイは、決して軽くない。
題材がそもそも、重い。
彼が身を置いている環境が重い。

なのに。
読んでいて、ほんとうに心が安らぐ。
このように考え、書ける人がいるということ。

穏やかな表情の奥の鋭い知性。

痒いところに手が届く、というよりも。
さらにもっと深い感じの「あ、そこ!」

たぶん。凡人なら数歩前で止まる。
才ある人でも、一歩届かない。

中井先生は「わかるんだな」と。
ああ、そのことが、ちゃんと「わかるんだ」と。

随所で泣きたくなるほど感動してしまう。

自分では言い表せずにいたことを代弁してくれている。
嬉しいし、ほんの少し悔しい。でも、圧倒的に嬉しい。

厳しいことを飾らない美しい言葉で書く。
その厳しさが途方もなく優しい。

(2017.5.3)
私の読書生活の中でも。
トップクラスの事件と言えるのは。
中井久夫という精神科医の文章に出会えたことです。
何が好きかというと。「知」と「情」のバランスの良さ。
いえ、どちらにも秀で過ぎている超人的な頭脳?
何より、私はこの人の文章が好きです。

災害がほんとうに襲った時――阪神淡路大震災50日間の記録  中井久夫

4622076144

みすず書房
Amazon

中井久夫氏の言葉はなぜか、書き留めておきたくなる。

あらためて思う。日本人は希望的観測に盲従する傾向があると。

日本人はかねがね「援助下手」であったが「援助され下手」でもあった。

私が改めて感じたのは、われわれの医学が、ガス、水道、電気の存在を空気のように前提としていたことであった。かつて、冗談まじりに「医師国家試験には電気のない条件でかくかくの疾病を治療せよといった問題を出すべきだ」と言ったことがある(もっとも、日本医師のそのような条件下での行動力は十年前に比べてかなり向上していると私は思う)。

一般に何の整理を優先させるかにその科の哲学が現れていた。

私は行き帰りの他は街も見ず、避難所も見ていない。酸鼻な光景を見ることは、指揮に当たる者の判断を情緒的にする。私がそうならない自信はなかった。動かされやすい私を自覚していた。

私たちは涙もろくなっていた。いつもより早口で甲高い声になっていた。第三者からみれば躁状態にみえたかもしれないが、実際には自己激励によるエキサイトメントであったと思う。万一「空しい」と感じてしまえばそれこそコトだと私は思った。

精神科医たちが一堂に会した時、いかにいじめられっ子出身者が多かったかに驚いたことがある。いじめられっ子は先生に絶望した経験を持っているものだ。

弱音を吐けない立場の人間は後で障害が出るという。

実に多くの人が、この状況にあった「ただでものをもらう」ことに抵抗を感じていた。初期にはそのためのためらいがあった。かなりの神戸市民は政府の援助を争って受けたのではない。心理的抵抗を乗り越えてようやく受けたのであることを彼ら彼女らのために言っておきたい。

 私自身が、おそらく震後十日ごろから、悪夢を自覚するようになった。それは、透明な悪夢とでもいうべきもので、まったく内容がなく、ねじられ、よじられ、翻弄される体感感覚より成る悪夢であって、なかなか覚醒せず、私は非常に苦しんで、ようやく目ざめると時計は五時を少し回っていることが多かった。

阪神淡路大震災から、もう20年。
あれからまた幾つもの大きな震災があって。
震災を知らずに育った子供たちもいて。

何が出来るわけでも、できたわけでもなかったけれど。
せめて忘れずにいなければと・・・

(2015.1.31)
  

プロフィール

Author:彩月氷香

とにかく本が好き
読書感想がメインですが
時々、写真や雑記も。

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