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時のしずく  中井久夫

4622071223

みすず書房
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好きすぎる、この本。

付箋70枚。
もう、この本は買うべきである。

中井先生の考え方、文章、行動。
ため息しかでないくらい、憧れる。

氏のエッセイは、決して軽くない。
題材がそもそも、重い。
彼が身を置いている環境が重い。

なのに。
読んでいて、ほんとうに心が安らぐ。
このように考え、書ける人がいるということ。

穏やかな表情の奥の鋭い知性。

痒いところに手が届く、というよりも。
さらにもっと深い感じの「あ、そこ!」

たぶん。凡人なら数歩前で止まる。
才ある人でも、一歩届かない。

中井先生は「わかるんだな」と。
ああ、そのことが、ちゃんと「わかるんだ」と。

随所で泣きたくなるほど感動してしまう。

自分では言い表せずにいたことを代弁してくれている。
嬉しいし、ほんの少し悔しい。でも、圧倒的に嬉しい。

厳しいことを飾らない美しい言葉で書く。
その厳しさが途方もなく優しい。

(2017.5.3)
私の読書生活の中でも。
トップクラスの事件と言えるのは。
中井久夫という精神科医の文章に出会えたことです。
何が好きかというと。「知」と「情」のバランスの良さ。
いえ、どちらにも秀で過ぎている超人的な頭脳?
何より、私はこの人の文章が好きです。

災害がほんとうに襲った時――阪神淡路大震災50日間の記録  中井久夫

4622076144

みすず書房
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中井久夫氏の言葉はなぜか、書き留めておきたくなる。

あらためて思う。日本人は希望的観測に盲従する傾向があると。

日本人はかねがね「援助下手」であったが「援助され下手」でもあった。

私が改めて感じたのは、われわれの医学が、ガス、水道、電気の存在を空気のように前提としていたことであった。かつて、冗談まじりに「医師国家試験には電気のない条件でかくかくの疾病を治療せよといった問題を出すべきだ」と言ったことがある(もっとも、日本医師のそのような条件下での行動力は十年前に比べてかなり向上していると私は思う)。

一般に何の整理を優先させるかにその科の哲学が現れていた。

私は行き帰りの他は街も見ず、避難所も見ていない。酸鼻な光景を見ることは、指揮に当たる者の判断を情緒的にする。私がそうならない自信はなかった。動かされやすい私を自覚していた。

私たちは涙もろくなっていた。いつもより早口で甲高い声になっていた。第三者からみれば躁状態にみえたかもしれないが、実際には自己激励によるエキサイトメントであったと思う。万一「空しい」と感じてしまえばそれこそコトだと私は思った。

精神科医たちが一堂に会した時、いかにいじめられっ子出身者が多かったかに驚いたことがある。いじめられっ子は先生に絶望した経験を持っているものだ。

弱音を吐けない立場の人間は後で障害が出るという。

実に多くの人が、この状況にあった「ただでものをもらう」ことに抵抗を感じていた。初期にはそのためのためらいがあった。かなりの神戸市民は政府の援助を争って受けたのではない。心理的抵抗を乗り越えてようやく受けたのであることを彼ら彼女らのために言っておきたい。

 私自身が、おそらく震後十日ごろから、悪夢を自覚するようになった。それは、透明な悪夢とでもいうべきもので、まったく内容がなく、ねじられ、よじられ、翻弄される体感感覚より成る悪夢であって、なかなか覚醒せず、私は非常に苦しんで、ようやく目ざめると時計は五時を少し回っていることが多かった。

阪神淡路大震災から、もう20年。
あれからまた幾つもの大きな震災があって。
震災を知らずに育った子供たちもいて。

何が出来るわけでも、できたわけでもなかったけれど。
せめて忘れずにいなければと・・・

(2015.1.31)

「昭和」を送る  中井久夫

4622077698

みすず書房
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穏やかで冷静で柔らかな筆致は変わらず。
時事的な内容も、この人の書くものは古びない。

いつも考えさせられる。そして鋭いのに心が深く癒される。
清涼感のある優しさにすっと心が鎮まる。

氏の言葉の紡ぎ方がとても好きで。
同じことを書こうとしたら殺伐としてしまいそうな
悲鳴と呻きに満ちてしまいそうなそんな気がする私は。

何が違うのだろうと考え。
きっと、ずうっとずうっとずうっと。
考えて考えて考え続けてこられたのだろうと推測し。

悲哀と絶望を越えようとする時に。
力みすぎて語調が強くなる人がほとんどだというのに。

それもなく、逆に沈み込むということもなく、
静かに瞬く希望の光をいつも内部から発しているような。

ああ。こんな文章を書けたらいいな。
こういう心持ちで生きていけたらいいな。
他人を見る目の、この柔らかさを持てたらいいな、と。

ご本人にお会いしたことがあるわけではないから。
ほんとうの人柄ということは分かり得ないわけだけれど。
文章の中に見える知と情のバランスはきわめて好ましく。

一見ごく無造作で何気ない表情のなかに、
たくさんの秘密や発見が鏤められているような、
見過ごしがちな小さな茶目っ気が潜んでいるような。

しかし。今まで読んだ氏の著作の中では。
いちばん、生身の人としての氏の姿が窺える一冊だった。

こだわってしまうこと。
許せないこと。
忘れられないこと。
心配なこと。
不安なこと。

大きな声で語らないけれど。
やはり当然、誰にもあるのだとそっと知らされる。

それをどのように処すかということなのだと。
当たり前のことだけれども改めて実感させられ。
ほんの少しでも見習えたらな、とそう思った。

(2015.1.6)
以下、脈絡の無いメモです。完全に自分のためのもの。
書き抜いた文章と、雑なまとめ。
読んでも訳がわからないと思うのでスルーして下さい。

家族の深淵  中井久夫

4622045931
みすず書房
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時間がなくて、駆け足で読んでしまいました。
気に留って書き写していたところが少しあるので転載します。

しかし、治療というものは、多くの一見の無駄を必要とし、多くの隠し味に支えられて成り立つものである。良質の隠し味が多い治療、水面下の部分が多い治療ほど、奥行きのある治療、ゆるぎにくい治療であると私は思う。

「多くの事物は、その『居心地のよさ」を保つために環境としての人間を頼みにしているようだ。きっと「居心地」をよくさせる人間とそうでない人間がいるのだろう。」

大勢の人間を率いて来た力が見える。人の輪の中にも積極的にはいっていく。気持ちよい礼儀正しさ。


感想になっていませんけれど。
読む度に中井久夫氏の文章はいいだなぁと思います。
氏の、人を見る目が特に好きです。

(2013.11.30)

最終講義―分裂病私見   中井久夫

4622039613

みすず書房
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著者の文字通り「最後の講義」を文章に起こしたもの。
はぁぁ。ため息が出ます。
分裂病を専門にしていらしたので。
もちろん、その話が大半ではあるのですが。

精神病の成り立ちや研究についての話という印象はなく。
人間が生きていくことの苦しさと、
それでも失われない希望ということを強く感じます。

あとは。著者の観察眼の鋭さと、繊細さ。
そして、それを表現する言葉の優しさ。
心の中で起きている嵐を、そして回復を、
文章に置き換える際の言葉選びが、とても良いのです。

人がそれぞれ持っている「宇宙」のことを思い。
哀しくも愛しくも苦しくもなる、素敵な講義でした。

以下は単に自分のためのメモです。
未整理で意味不明で・・・すみません。


お魚でも水族館に長く飼うと鈍い「水族館色」になる。

患者が抱く「恐怖」
心の自由度がゼロの状態

心のゆとりがなくなると「乱数発生」できなくなる。

分裂病の回復は登山でいうと、山を登る時でなく山を下りる時に似ている。

夢の健康度

コンラート『分裂病のはじまり』

つまり、分裂病でない人は、のほほんとしていても分裂病にならないのではなくて、日々、何らかの入力によって、分裂状態という、とても苦しい、逆説的な、宙づりになっているような状態の実現を妨げられているのだと考えることもできるでしょう。

身体症状
夕方には対象のない不安が高まる

「精神交互作用」、すなわち注意を向けることによって症状が強化され維持される悪循環。

(2014.8.22)
著者が救えなかった青年の思い出を語った言葉が印象に残ります。
「彼の生きる美学に背反してしまって、彼の生きる士気をくじいたのであろうか」

  

プロフィール

Author:彩月氷香

とにかく本が好き
読書感想がメインですが
時々、写真や雑記も。

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