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『マチネの終わりに』  平野啓一郎

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毎日新聞出版
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恋愛小説・・・のはずですけれど。

いえ。正真正銘、ベタな恋愛小説でしょう。
著者のイメージには「恋愛」はなく。
かえって面白いかなぁ・・・と読んでみたのです。

実は。デビュー作と、二番目の作品を読み。
駄目だこりゃ、と読まなくなった作家。

美しい日本語って言われてましたが。同意出来ず。
美しげな言葉で書いた内容のない小説と断定。

まぁとにかく。好奇心で読み始めた本作。
心理描写が丁寧。細やか。わかりやすい。心に響く。
加えて、読み心地がいい。

主人公の男と女。
私は女の方に感情移入できませんでした。
女性全般に嫌われそうなタイプですね。

ふたりの恋路に邪魔が入る。
これが・・・「昼ドラですか?」な陳腐な展開。
思わず、本をぶん投げそうになりました。

でも。たぶん。私が歳をとったからなんでしょう。
昔だったら怒り狂ったであろう人や出来事が「許せる」。

言ってしまえば。
こんなもんだよね、と納得出来る。

恋愛って。
好きだから好きだ、好きなんだから仕方ないだろー!
・・・と突っ走るのが、ザ・王道でしょう。

愛しているから「引く」というのもありますけれど。
ていうか。その方が実は多いかもしれませんけど。

引き過ぎているんですね、この小説の二人。
そこに親近感かつ、リアリティを感じます。
突っ走らないのは極めて現代的。

恋愛が全てに優先していない二人でもあって。
自らの「生き方」「使命」「目的」「役割」ということを。
日々、真面目に考えている。だから恋愛に振り切らない。

そこがすごく共感できる。

この人が疑いもなく「運命の相手」だとわかっているのに。
その「運命」は諦めるべきものと思ってしまう。

しかし、別れのきっかけだけは。
なんか他に方法がなかったかな?
昼ドラ展開にしないでも、描けなかったのかな?

主役の男と女は。とにもかくにも「主役級」の人材で。
脇役は「どう転んでも脇役でしかない」人材で。
そのことを傍役自身に自覚させ語らせる残酷さは、上手い。

心模様の織り方が好きですね。
とても、美しい模様です。
恋愛というものがあってもなくても良かったような・・・
特に、恋模様に私は見惚れるということはなく読んでいました。

感想は難しくて。

十分に好きだけれど。
何かが違えば、もっと好きになれたかもしれないと感じさせられる。
だからと言って、それを「惜しい」と言い換えるのも安易なような。

うん。でも。
私がかつて思っていたよりずっと。
平野啓一郎という人は「書ける」という印象とともに。
ちょっと、興味も湧いてきた・・・かな。だな。

同世代観、みたいなのは、意外とある。
すごく、真面目な人なんだな、きっと。
そして、残念ながら。この人の「底」はそれほど深くはない。

(2018.1.30)

猫には推理がよく似合う  深木章子

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角川書店
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おや、これは、なかなか新鮮なミステリー。

猫とミステリーの組み合わせは珍しくない。
その猫が真っ白のスコティッシュフォールドで。
しかも、気を許した人間だけに喋るとしても。
ま、さほど驚くことでもない。

猫の名前に関しては笑える。
(これから読む人のために言わずにおきます)
猫の程々に我儘な性格もいかにも猫らしくていい。
猫が実は大のミステリー好きなんていうのも面白い。

のどかなミステリーだと思っていたら。
最後にちょっとした急展開。

私・・・勘だけで犯人、わかっちゃいましたけど。
犯人以外のところでビックリしました。

そ、れ、は! 想像もしていなかった!

このアイデアと作品全体の雰囲気、買えます。
ただ、最後は尻すぼみと言いますか。
衝撃の事実の後始末的な展開のところが弱い。

初めましての作家さんでしたが。
いわゆる当たり外れのあるタイプでしょうか。
創意工夫があり、細やかなんだけど、ちょっと雑。
一生懸命ミステリー書いてる人にありがちな・・・

でも。案外、この感じは好きかもしれない。
そもそも、ミステリーなんて不自然なんですから。
リアリティーを求め過ぎると社会小説になっちゃう。

失礼ながら、外れる覚悟を持って読めば楽しめそうです。

(2017.6.3)
ミステリの「当たり外れ」って。
まぁ個人の好みが相当、影響するんですよね。
レビューを読むと、絶賛の声と酷評が同数ってのいうもザラ。
相対的に評価が高くて、安定感がある人は大抵、超人気作家。
でも、人気作家の作品って新鮮ではないんです。
ちょっと下手、なのが愛嬌になる気がします、ミステリって。
基本的には私の好みは、「ザ・王道・本格・傑作」ですけれど。

昭和の犬   姫野カオルコ

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幻冬舎
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白い色がすごく目立ったんだと思うの。なにか一つだけ目立つ要素があると、人ってそのほかの要素を見なくなってしまうというか、見えなくなってしまうんだよ、きっと

主人公がテレビの主役だった犬について言及する場面。
人間の思い込みの激しさ、先入観の強さを示すいい例です。

実は私も著者に対して同じような思い込みを持っておりまして。
「姫野カオルコ」という名前だけでアレルギーを起こし。
いまだかつて一度も手にとったことがない作家さんでした。

名前の印象はというと。
キラキラしてて「強い」女子。
とにかく、私が敬遠するタイプです。

この名前を「強そう」と感じる私の感性がおかしいような・・・
ともかく。強そうな女性が凄く苦手なのです。

それが、直木賞受賞の様子がテレビで写り。
あれ、面白いおばちゃん!と著者の印象が変わりました。
それで読んでみようと言う気持ちになったいう次第。

で。面白かったです。
ワンちゃん(色々出て来ます)と共に主人公の人生が語られる。
独特なユーモアのセンスに時々、置いてきぼりをくらいますが。

作風から言うと。好きということはないです。
文章が上手いのか下手なのかよくわからないというか。
読みやすそうなのに、意外と読みにくいというか。

ただ。この作品がちょっと特殊なのかな?

(2014.8.7)
今後、その方針が守られるかどうかわかりませんが。
基本的には一冊読んだだけで作家を判断しない主義です。
よほど「だーめだ、こりゃ」な場合は別として。
同じ作家の本を二冊は読んでみることにしています。
でもね。近頃、人生の短さと読みたい本の多さに。
この方針は放棄しようかと考え始めています。

刑事さん、さようなら  樋口有介

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中央公論新社
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久しぶりにミステリを読んでビックリしました。

後味が悪くて当然!な内容ですけれど。
あまりにも見事に騙されてしまったので、
何だか妙な清々しさのようなものが残りました。

ネタバレになるので語れませんが、
読者の固定概念を上手く利用して裏切ってくれます。

そっかぁ。それで、このタイトルなんだ。

こういうのキライ!と感じてもおかしくなくて。
ギリギリ「面白い」と思えた作風です。

当たり外れがありそうな作家さんですが、
また読んでみたいなと思います。

(2013.9.14)

放浪記  林 芙美子

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新潮文庫
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読み始めてから読み終わるまでずっと苛々していた。突然現れる「あの男」や「あの人」という言葉が誰のことを指しているのかわからない。いつの間に、どこからどこへ芙美子が移動したのかわからない。気がつくと、私も芙美子とふらふらと放浪しているような錯覚に陥っていた。混乱して、様々な出来事が頭の中でごちゃごちゃになった。

そのような状態でこの本を読むのはかえって、ふさわしいことなのかもしれない。はっきり、くっきりした頭で考えながら読むよりもこの本の雰囲気をよく捉えられる気がする。けれど、あくまでもストーリーのある小説としてこの本を読もうとした私には、この本はバラバラで細切れで、何が何だかちっともわからない苛々させられる本でしかなかった。その上に非常に厚い。精神的な疲労を感じながら半分から後ろの方は、すごい勢いでとりあえず読むだけは読んだという風で、文字は目に入っても頭には殆どなにも残らなかった。

それが一度目に読んでから随分日が過ぎた頃に改めて読み始めた時、私は以前読んだ時とはまるで違う印象を受けた。あらかじめ、この本が雑記帳をもとにまとめられた順序を重視しない形式で成り立っているという認識を持っていたことによる差もあると思う。何より、私が起承転結のある小説に慣れ過ぎていたことがこの本に対する苛立ちを生んでいたのだったから、その点にこだわらないことで、この本に対する見方は随分変わったのだろう。物語らしい話の展開に固執せずに読むことでむしろ情景も芙美子も生き生きとして、背景となる様々な登場人物と共にひとつの物語として見えてきたのだ。

そしてまた、この本は筋を追い、無理に物語として捉えようとしたりしないで読むほうが魅力があることに気付いた。芙美子のどん底にあってもぎりぎりのところで卑屈になっていない生き方、苦しみをわざと茶化して見せるひとりごとには、貧乏なんて知らず、物質的には何の不自由もなく育った私の心にも強く響いてくるものがあった。勿論、私に飢えや貧乏の苦しみがわかると言ったら嘘になると思う。わかる筈がない。想像してみることは出来たとしてもそれで芙美子の苦しみがわかるなどとは言えない。

ただ、この人の文を読んでいると私にとっては何でもないような食べ物がひどく、美味しそうに頭に浮かんだ。あんパン、うで玉子、おべんとう、とうもろこし、みそ汁・・・。私はこの本以外でこれらの食べ物の名をみておいしそうだと思ったことなんてない。実際これらを口にして特においしいと思うことも殆どない。なのに、この人の文章の中に見つけるこれらの名前は、匂いが漂ってきそうに思えた。美味な味として私の脳裏に浮かんでくるからではなく、芙美子の飢え、「食べたい、食べたい」という強い思いが私にも伝染したせいなのだろう。それ程、この人の文には力がある。美しく、取り澄まして小綺麗にまとまった文などは持ち得ない真の力、魂の響きのようなものがある。

そういったものは、たった一行読むだけでも感じられる。適当にパッと開いたページの、目についた箇所を無秩序に読んでも充分、心の満たされる本だと思う。ただ明らかにこの本に収められた中では一番新しいと思える文―芙美子がかなり安定した収入を得ていることのわかる文―から、私は不安を感じた。それまでの、貧乏暮らしに苦しんでいた芙美子の文にはなかった気弱さがそこにあるような気がした。

飢えの苦しみから解放されたかわりに、芙美子は重い鎖につながれてしまったかのように思える。不安で明日の何の保障もなかった頃には持っていた自由を失い、何事にも負けまいという芙美子の気の強さ、開き直って見せる態度など、私の惹かれた部分も失い始めているように見えた。どれほど苦しかったにしても、本当は芙美子にとって幸せなのは放浪の生活なのではないかと思いたくなった。

第三者の勝手な考えだろうけど私はひとつの場所に根をおろしてしまった芙美子を見たくなかったのだと思う。それくらい、放浪の日々を生きている芙美子が鮮やかで印象的だった。
私の頭の中の芙美子はいつまでも放浪し続けている芙美子だと思う。

(読了年月日不明)
いつも訪れてくださっている方は、少し驚かれたでしょうか。これは、例の高校時代に無理やり読まされた本たち(ご存じなく、気になる方はこちらをお読みください)の感想文の一つです。
連休中、どんなものが飛び出すやら恐ろしくて長年読めなかった感想ノートを、うっかり開いてしまいました。勇気を出して読んでみると、文章のあまりの素直さに軽く感動すら覚えました。
と、いうわけで。恥を恐れず、公開することにしました。全く、一語も手は加えていません。気になるところは多々ありますが。もとの文章は改行なしでみっしりと書かれているので、その点だけは読みやすいよう、区切りました。
思い出したくもないくらい、ひねくれた少女だったと記憶している自分の、意外なほどの真っ直ぐな気持ちに、どんなに暗く救いがたいものと本人が思いこんでいても、若さとは清々しさを失えないものなのだな、と今は微笑ましく感じます。
ご要望ございましたら、まだ人前にかろうじて出せそうなのは幾つかあります。



  

プロフィール

Author:彩月氷香

とにかく本が好き
読書感想がメインですが
時々、写真や雑記も。

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