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刻まれない明日  三崎亜記

439633821X
祥伝社文庫
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三崎亜記「刻まれない明日」読了。「明日は誰にもわからない。それでも、この踏み出す一歩が新しい明日につながるものだと信じて、歩くしかないのだ。たとえそれが、記憶に刻まれない明日であるとしても。」締めくくりの一文は、この物語を読んだ人間には悲痛に響きもし、微かに慰められもする。

思念と国家の統制と。双方の力比べが描かれていて。その狭間で生じた犠牲とその傷を負って生きる人々が描かれる。街や道の喪失や再生ということと、記憶と歴史の塗り替えも。読み終えて思うのは。国家に統制されなくても。個人が自分の中で思念を押し潰し、隠匿し、塗り替えているということ。


以上、読後のつぶやき。
以下、本文からの書き抜き。

「どんなに荒唐無稽なことでも、子どもが信じてやろうとしていることは、自分も信じる。それが親の役目だ」

「似合わない服をプレゼントされた気分だよ。しかも・・・」
「似合わないと思っているのは本人だけなんだ」
*四十歳になるって、どんな気分?と訊ねられての登場人物の答え。

 相手に踏み込むのをとどめる術は、一人で行きてきた日々で、充分に会得していた。人生には、経験を経ることによって身につく臆病さというものも存在するのだ。

「何もできることはないかもしれない。何かをしても役に立たないかもしれない。それでも、何かをしてあげたいと思い続けることだよ」

 だが、どんな深い傷もいつか消え去り、傷のあった場所さえ思い出せなくなる。
 いずれ、すべては忘れられる。
 それをさだめとしながらも、人は精一杯の記憶を、そして想いをつないでいくのだろう。

 店主自身は、積極的に悩みを引き出すでも、解決の糸口を与えるでもない。人生の舵取りはそれぞれに任せながら、この場所でじっと見守ろうとするかのようだ。


(2015.8.22)
著者は独自の世界観を持っている、と。
読む度に感じ、そこにある「喪失感」に惹かれます。
さらさらと描かれた痛みが、深く沁み透る・・・
とある事件後、現存の作家の本は読まない、と。
決意したことがありましたが(脆くも破れました)、
その時、読めなくなることが惜しいと思った作家の一人。

となり町戦争  三崎亜紀

4087747409
集英社
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知らないうちに、戦争が起きて。
何だかよくわからない「任務」を与えられ。
そして、また、戦争に参加した実感もなく、戦争が終結する。

どこで人が死んでいるのか、そもそも何のための戦争なのか。
何も見えず、聞こえず、「戦争」は主人公の身を通過していく。

呆気ないほど簡単に。虚無とも呼べないくらい、あっさりした空白。
「感じ取ることもできない」巨悪。気配すら感じない悲劇。
哀しみも苦しみもない、幻のような喪失感。

見えていないことは、存在しない。持っていないものは、見えない。

想像力を働かせて、他人の痛みを知り分かち合おう、なんて。
残念ながらやはり、欺瞞か思い上がりか勘違いに過ぎぬのか。

人間が、それでも掴み取りたいと願うものは何だろう。
知らずにいることで得る平和を、良しとは出来ないのは何故だろう。

戦争は、いつもある。ずっとある。すぐそばにある。そして見えない。

(2011.4.28)
三崎亜記にしては、わかりやすく素直な物語。
彼女の生みだす「不安」「破綻」「滅び」が大好きな私には
少し物足りなさも・・・綺麗に纏まっている作品で、そこがむしろ残念。


廃墟建築士  三崎亜記

4087712737
集英社
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三崎亜記の、奇妙な発想の羽ばたきが炸裂する短編集。

「七階闘争」・・・七階を排除せよ!七階を守れ!
「廃墟建築士」・・・廃墟こそ究極の建築。廃墟後進国を脱するべし。
「図書館」・・・夜の図書館は、ワンダーランド!?
「蔵守」・・・蔵は意思を持ち、蔵守は蔵とともに滅ぶ。

一見、そんな馬鹿な!という非現実な設定なのに、
著者独特の、細密にリアリティを構築する作風によって、
「ここではないどこか」の世界を見事に作り上げていく。

ついていけない、と感じる人もある・・・ような気はします。
私は、このシュールにファンタジーな感じが好きです。

いつも自分が心の奥にしまい込んでいるものに、
小さいながらに強い光を注ぐような、そんな鋭さを感じたりもする。

ポン、と異世界に放り出されて、そのまま捨てられたような・・・、
そんな、時を越えたような心細さも、むしろ心地よい。

(2011.1.30)
とは言いつつ、私は彼女の長編の方が好きです(笑)
冗漫だと言われておりますが、そこが気に入ってて。
だから短編は、ほんとは少しだけ、物足りなかった・・・



失われた町  三崎亜記

4087464989
集英社文庫
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『その音色は、単なる「癒し」ではなかった。人には決して癒されえぬ悲しみや苦しみがあることを知る音だった。それらを抱えたままに進んでいかなければならないという貫くような意志と想いが託されていた』

何でもない一文だけど、ここに辿り着くまでに描かれたものが美しい。
こういう書き方もあるのだな。
青臭さもあるけれど、なつかしいけれど、新鮮。
説明少なく、不思議な世界を描いている。

注目すべき作家。

(2009.2.9)
  

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Author:彩月氷香

とにかく本が好き
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時々、写真や雑記も。

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