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悪魔のささやき  加賀乙彦

4087203549
集英社新書
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人間はなぜ殺人者となるか、なり得るか。


私は殺人ということに興味というか、自分なりの考えがあります。
その考えは、著者とほぼ一致しています。

要は、誰でも(当然私も)殺人者にはなれるということです。

著者は人が凶事に走ることを後押しをする力を、
「悪魔のささやき」と名づけました。

宗教的ニュアンスが入るため、
できれば「悪魔」という言葉は使いたくなかったそうですが・・・

その「悪魔」の力はどんな時、人を動かすのか。
その圧倒的な力に負けないにはどう生きたらいいか。

何しろ、著者は犯罪心理学者として身を立てようとして、
何百人という犯罪者に会ってきたのです。

何より、殺人者が殺人に至る経緯のあっけなさが怖い。
まさに「悪魔のささやき」にふっと乗ってしまったような。

著者は「私たち日本人は、特に流されやすい」と言います。

もの凄く、簡単に言えば。
社会が刑務所化している。そして人間の関心も狭くなっている。
興味の幅が狭くなるというのは大変、危険なことなのだと言う。

そして。
悪魔は人間の無知につけこむ。

そうですね。
加賀氏の言葉を追いながらゆっくり考えていくと。
私はやはり「悪魔のささやき」には乗らない人間ですね。

(でも、「悪魔のささやき」を聞くことはありますよ)

氏が語る「悪魔のささやき」を避けるための方法は。
つまるところは、「自分を生きる」ということです。

本物の「個人主義」は、自分の生き方を決めるということ。
流されずに自分について考え、自分を育て、生きるということ。
著者も言うとおり、それが一番大切なことだと思います。

自分自身の内面を見つめ、個人としての成長を重んじること。
自分で物事を考えること、そして反省すること。

悪魔のささやきに乗る瞬間、
きっと「自分」は失われているでしょう。

そういう、「自分を失う瞬間」を日常に持って生きている。
自分の心や意識を、乗っ取られることが珍しくないような、
そんな弱い意識しかない「自分」を生きている。

いえ。やはり。
私もそうなりかかっている・・・と思います。

時代にそのまんま乗っかれば、そうなります。
そうじゃないな。どの時代でも、あることです。

自分自身と対峙するのは決して楽なことではない。
不満足だらけの「自分」を育てるのもしんどい。
もっと言えば、自分の姿なんて見るのも面倒くさい。

「自分」を好んで「失う」素地があって。
社会のシステム、風潮、娯楽がそれを後押しする。

凶事は「強い自我」が生むものではない。
むしろ「自我」の空白から生まれるのだという気がする。

残念ながら。
ありとあらゆる恐ろしい犯罪の根っこは。
人間の「欲望」から生まれている。

たいていの人は道徳や両親や理性などが歯止めになり、
それらの欲望は娯楽や空想で遊ぶだけに留めて一生を終える。

でも。その歯止めは脆い、と著者は言う。

人がもともと持っている残虐性を。
解き放つきっかけとなるのは些細な偶然であることが多い。

「漂っている意識」が危険なのだ・・・というのもわかる。
そして、その「漂っているふわふわした意識」はよく見かける。

あ。私もその一員になりかかってた・・・

(2017.6.8)
怖くて、面白くて、共感して、反省する。
そんな、感情が「忙しい」読書となりました。
読了した本は、付箋で膨れ上がっていました。
犯罪心理に興味のある人はぜひ、ご一読を。
加賀乙彦の小説もそういえば昔、読んだなぁ・・・
近々、また何か一冊読んでみよう。

おさがしの本は   門井慶喜

4334763227
光文社文庫
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図書館に勤務していて、
リファレンスカウンター担当の男性が主人公。

本好きさんには、なかなか楽しい本です。
ほほーぅ。そういう風に調べるんだなぁ、と。

(2015.8.30)

へたも絵のうち   熊谷守一

4582763251

平凡社
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青木繁と美術学校で同じだったそうですが。
ほんと、びっくりするくらいのそうとう変人!
もちろん熊谷守一だって負けていません。

読んでいて。実に自然でいい文章だなと思いましたら。
書いた物ではなく、聞き書きでした。

その点に関しては、
解説の赤瀬川原平がいいことを書いています。

 まず観察の興味があって、それが結局は一生つづいている。あとはみんなそれに付随することなのだ。観察というとふつうはその結果として正解を得るための観察となるわけだけど、この人の場合にはそれもない。あるけど、さらにその先、ひたすら見ていることが気持ちいい。自分がいて何かを見ているという、その距離感を楽しんでいる。

実際にペンを手にして書くというときには、どうしても自意識が作用する。だから文章を書くときには出すぎる力の制御が難しい。良かれ悪しかれ、自意識の後押しによって文章は書かれるものだけど、話の場合はそういう後押しもなく前に人がいるからというだけのことで自然に言葉が引き出されてくる。そのさり気なさが全篇にあふれていて、それがむしろこの人らしい自然な話になっている。


以下、本文から書き抜いた文章の断片。


え、なんでまた?  宮藤官九郎

4163762302
文藝春秋
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付箋だらけになっちゃった・・・
なんか、あれもこれもと紹介したいエピソードだらけ。
宮藤官九郎氏の日常、楽しいです。

正直、私。ドラマを見ないし、邦画も殆ど見ないし。
クドカン作品といえば、「あまちゃん」しか見てないかも・・・

そもそも。「あまちゃん」にハマった母が、
宮藤官九郎の本を読んでみようと思い立ったのが発端で。
図書館で彼女が借りた本を私が又借りして読んだワケなんです。

そうそう。あまちゃんを毎日楽しみにしてる人も多いかな?
私も毎日欠かさずに見てます。アキちゃんのファンです。
あと、夏ばっばとミズタクとあんべちゃんが好き。

あ、こちらに宮藤さんの日記がありますよ。
→http://otonakeikaku.jp/special/special_kudo.html

さかのぼって、3/11の日記をぜひ読んでもらいたいな。
東北を舞台に朝ドラを書いた彼の気持ちが綴られています。
私、ここを読んで一気に彼のファンになっちゃいました。

で。本作に話を戻しまして。
とにかく、面白い!痛快というのと違うんだけど。
よくぞ言ってくれました・・・的な部分も多々ありつつ。

それを心細げに、ひっそりと、でも堂々とおっしゃるんですね。
なかなか言えないこと、言い方を間違って周囲を怒らせること、
こうしてみると、ホントにたくさんあるなぁと思います。

官九郎さんの語り方、イイです。
この温度が好きです。ぬるく見えるけど熱い。
失礼を承知で言うと・・・すごく可愛い人ですね。

週刊文春に連載したものを加筆修正したものだそうで。
前作もあるようなので、近々読みたいと思っています。

私は映画は映画館で・・・とかねがね思っているのですが。
撮る側からの気持ちを聞いて、その意を強くしました。
「作り手の驕りと聞き流して欲しい」と断って宮藤氏が言うのは。

「映画館で観た」が10だとすると「DVDで観た」は5ですね。スマホは1です。「脚本だけ読んだ」が3くらいかな。はい。小っちゃい画面で観るならいっそ頭で想像して。そっちの方が面白いから。

これだけ読むと、冷たく聞こえるかもですが。
なぜ、映画は映画館か、を語った部分(長くて引用不可)が、
大変わかりやすくストレートに、腑に落ちます。

そして。私の個人的な考え方としては。
5よりは0の方がいいや・・・なのです。
映画館で観れないなら、縁がなかったと諦める。
いつか運良く、映画館で観れる可能性もあるし。

その考えを読書にも応用出来たら、読む本も絞れるんですが。
つまり、しっかり読み込める時間と気力がないなら読まない。
それが本当は正解だと思っています。

本気で読んでもないのに、偉そうに感想や意見を言いたくない。
あ、でも・・・やっちゃってるのかなぁ。やってるよなぁ。

観ないよりいい、やらないよりいい、読まないよりいい・・・式の、
とりあえず観た、とりあえずやった、とりあえず読んだ・・・が。
私はいつまで経っても自分の中で許せない行動なのだと思います。

もちろん、必要に駆られて「とりあえず」な場面は多々あります。
否、ほとんど私の人生なんて「とりあえず」の連続です。

だけど、イヤなものはイヤなのであって。
その気持ちは敢えてずっと忘れずにいたいような気がします。

なんだか、不思議と元気が出て来る本でした。
うーん。それは言い過ぎかな。気持ちがほぐれる・・・かな。
笑って、ちょっと考えて、そして心が晴れました。

(2013.7.21)
「とりあえず」から生まれるものもあるので。
っていうか、やはりやらないよりはマシ、な場面もあって。
だから、「とりあえず」を否定してるんではありません。
「とりあえず」をとっぱらった潔い生き方への、
永遠に叶いそうもない個人的な憧れだと理解してください。

空白の五マイル 角幡唯介

408781470X
集英社
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「チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む」と副題にあります。

著者は大学を卒業した後も、探検家になると息巻いて就職せず、
土木作業員のアルバイトをしながら山を登ったり探検していた。
が。将来の不安から新聞記者の採用試験を受けてみると、なぜか合格。

入社までの半年で、ツアンポー峡谷に再チャレンジすることを決意。
(大学時代にも一度チャレンジして失敗していた経緯も語られる)
その冒険譚と、ツアンポー峡谷とはそもそも何なのか・・・が主題。
最後に「冒険」が何を意味するかについての考察で締めくくられる。

角幡さんの人柄には好意が持てる。その冒険の内容や姿勢も。
ただ。それを記すスタイルは、どうにも好きになれない。
しばしば紋切り型に陥るクセが見受けられるのが神経に触った。
これで開高健ノンフィクション賞受賞というのは納得出来ない。

同じ賞をとった石川直樹「最後の冒険家」の文章とは数段の差がある。
冒険がもはや本当の意味では存在しない時代の哀しみを、
背負っているという点で二人は似ているのに・・・
石川さんの作品ほど、私の心を揺さぶるものが本書には無かった。

いかに書くか、だ・・・と思う。
内容は読み応えもあり面白くもあり、文章も下手なわけではない。
しかし、それだけじゃダメなのだ。贅沢なようだけど。

この辺でちょっと笑いを取ろうというのがミエミエで。
しかも笑えないフレーズがちょこちょこ登場するのは愛嬌?
いや。自覚して欲しい。読者はそんなものを求めていないことを。

最大の失敗(と私は思う)は長々したエピローグ。
たとえ本人なりに到達した答えがあっても。
その提示の仕方には物書きなりの気の配り方が必要だ。
読者に委ねるという・・・彼は他人のことを書く時はそれが出来るのに。
自分のことを書くとそれが出来ない人のようだ。

若くして亡くなったある冒険家について語った箇所は良かった。
読む者に深く問いかけてくるものがあった。冒険の意義について。

それを。なんとまぁ。無駄に陳腐な言葉を連ねるのか。
説明しなくても読者が読み取れるものを。解説されると興醒める。
彼がエピローグで書いたことは。本文で語られるべきものだった。

なぜ、命をかけて冒険をするかということは。
冒険の記録と冒険の日々の思索の中に、おのずと表れているはずだ。
誰もがなし得るわけではない「行為」こそが物語るはずだ。
自らの作品を自ら解説してぶち壊すとは何ごとか。

罵倒しているつもりはない。怒りというよりも哀しかった。
勿体ないと思った。これだけの経験をできる人はそうそういないのだ。
語るべき言葉は思索の中で、もっと磨かれてしかるべき・・・

というのは。高望みなのだろうか。
冒険家が優れた思索家であり、さらに卓越した文筆家であるなんて。
滅多にないことだと考えるべきだろうか。

私は今まで、そういう冒険家と文章にしか触れて来なかった。
だから冒険家は神々しい才能を持っていると思い込んだフシがある。

改めて考えてみれば。そうでなくてはならないという理由は無い。
角幡氏の、私にしてみればズッコケるほどの「普通さ」ゆえに。
読者に喚起できるものも、もしかしたらあるのかもしれない。

不器用だけど誠実な人だということは窺われる。
それはいい。その不器用さを率直に表してくれたなら。
それなりに繕ってまとめてしまう中途半端な器用さが苦しい。
新聞記者として過ごした日々があだになっているのではと推測する。

文章が紋切り型、と先に書いたが。
彼の場合、思考の流れも紋切り型だ。そこが何よりひっかかる。
偽りがあるというのでもない、思索が浅いと言うつもりもない。

しかし。説明のつかないものを説明しようとして。
説明し過ぎて対象を安っぽいドラマにしてしまっている・・・
いや。どこか「わかったつもり」になって書いてしまっている。

かっこよく、というのを狙ってはいないだろうが。
カタチにしたいという欲望があって。結論を無意識に作っている。

これは・・・。上手い作文以上のものが書けない人の典型的な例。
文章をまとめる技術とそこそこの表現力を持っていて。
その衣を纏うことで、とことん掘り下げるべきものに到達しない。

一見。「答え」はある。いや。でも違う。深層に届いていない。
さらに表面を平凡な装飾で彩っている。削り出したままの方がいいのに。

言い過ぎた。筆力はある。冒険の場面を描いている部分では。
それに関する後の考察が、どうしようもなく蛇足だっただけ。

そして、こんなにも過剰反応してしまったのは。
自分自身も同様の愚を犯していることに気がついたからだと思う。

(2012.6.18)
このくらいの文章力でも上質な作品を書くことは可能だが。
粗いのだ、上手い下手以前に。言葉の選び方が雑なのだ。
より適切な表現を見つける努力を怠っているように見える。
(もし努力してこれが精一杯なら、本当に下手だということ)
どちらにせよ。その「足りなさ」が我が身に重なって辛く感じた。
はい・・・全くもって個人的な感傷です。すみません。

ちなみに本書は、大宅壮一ノンフィクション賞受賞も受賞しています。


  

プロフィール

Author:彩月氷香

とにかく本が好き
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時々、写真や雑記も。

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