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『擬態』  北方謙三

4167419076
文藝春秋
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虚無の輪郭。

ふと。ハードボイルドが読みたくなった。
昔。ものすごくハマってたのだけれど。
そういえば、もう何年も読んでいない。

日本の作家だったら。
藤原伊織とか、逢坂 剛、志水辰夫、大沢在昌、原尞、
白川道・・・まだあると思うけど。
思い出せたのは、この辺り。

海外の作家だったら。
ローレンス・ブロック、ダシール・ハメット、
レイモンド・チャンドラー、ギャビン・ライアル、
ドナルド・E・ウェストレイク、ジェイムズ・エルロイ、
マイクル・コナリー・・・こちらも、まだあるはず。

やはり日本の作家の方が少ないかな?
だったら未読のハードボイルド作家を開拓してみよう、と。
検索して、何冊かチョイスしたうちの一冊が、この本。

うん。これは。面白い。
正直、期待してたのとは傾向が違ったけど。

主人公の自己破壊衝動がストーリーを牽引する。
壊れ続けていくヒーローが魅力的なんですが。
痛快とか渋いとかカッコいいとか男の美学・・・とは言えない。

行き止まりの道ばかりを選んでいる。
なのに妙に冷静で、ストイックで。頭も良くて。強くて。
一見、自暴自棄にも見えるけれど、そうではない。
あ、やっぱりカッコいいんだわ。

 自分の内部から、なにかが欠け落ちてしまったと感じることがあったが、それも立原にとってはどうでもいいことだった。欠落したものを補うためになにかをしようとは思わないし、補えるのなら欠落などとは言わないのだ。

立原っていうのが主人公なんですけれどね。
なんか。この感覚はわかるなぁ。
いや、過去形かな。もしかしたら。

欠け落ちてしまったと感じる地点を通り過ぎてしまった。
・・・そんな気がするのです。私の場合。
だから、自らの欠落と共に爆走していく立原が眩しくて。

妙に共感できる部分がある。
立原は時代の閉塞感と真正面から向き合ってしまったんだな。
みんな、目を逸らして誤摩化して生きていくのに。

たぶん。
立原本人もそうするつもりでいたけれど、出来なかった。
それは、たまたま、だとも言えるのだろう。

そして。今はまた。時代は変った、とも思う。
良くも悪くも。生きる人間の「意識」も。

現代のハードボイルドのヒーロー像はどうなるんだろう。
もしくはどうなっているんだろう。
そもそも。ハードボイルドってなんだっけ。

暴力的・反道徳的な内容を、批判を加えず、
客観的で簡潔な描写で記述する手法・文体・・・ですか?

それって、私は「ノワール」だと思ってましたが。
あ。「ノワール」は「犯罪スリラー」という方が近いか。

推理小説、探偵小説、冒険小説あたりとの境界線が曖昧ですよね。
だいたい、ハードボイルドって一匹狼な探偵ってイメージが強い。
(チャンドラーのせいというか、おかげというか)

馳 星周あたりは私にはハードボイルドには思えないんです。
ノワール要素が強いとあまり好きでないだけかも。
その点、本作はそこそこノワール系かもしれない。

まぁでも。
ハードボイルドに欠かせないのは。
クールでドライな表現、というところが一番だろう。
その筆致の感触が結局、人を魅了するのだ。

あとは。そこに「疾走感」があれば花丸。

というわけで、本書はハードボイルドの傑作、と云えるかな。
終盤の展開には少し、不満のようなものはあるけれど。

(2018.5.2)
蛇足とも言えそうな、池上冬樹の長い解説。
しかし、ハードボイルドの変遷を辿れたのは良かった。
私はそうしてみると、結構名作は読んでいるのだな。
解説の中で語られた作品はほぼ既読だった(ちょっと得意げ)。
「檻」が北方の最高傑作とのことなので今度読んでみよう。

『ヒートアイランド 』  垣根涼介

4167686015
文春文庫
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闘わなくては、生きていけない。

突然。
ハードボイルドが読みたい!と思いまして。
先日、「擬態」を読んだわけですが。

面白かったけど・・・なんか期待してたんと違う。
で。今度はこちら。
とにかく、初めまして作家さんを選んでみようと。

あ。こっちの方が、普通っぽいわ。
主人公が若いけど、まぁまぁ王道路線。

思うに。
現代日本を舞台にハードボイルドを描くとなると。
ヤクザの存在は必須なんですね。

お金と暴力が絡まないとストーリーが成り立たない。
この本、解説が大沢在昌なんですけれど。
著者が「修羅場が男を磨く」という信念を持っていると指摘。

あ。そうかも。

修羅場って。
自ら作るか、そうでなくても探して突っ込まなければ。
ほぼ存在しないんだよな・・・

余程、運がいいんだか悪いんだかすると、
向こうから修羅場がやってくることもないではないけど。

平凡な人間は全力で避けたい「修羅場」を。
求めて生きていく人間もいる。

結果、人殺しも厭わないところに辿り着く。

単純な善悪の二極化で言えば「悪」。
それを格好良く書くなんてアカンやろ。

とかは思わないんですけどね。
暴力沙汰がどんどんエスカレートしたりすると、どん引き。

その点、本書は程よい感じでマイルド・・・
と思いながら読んでいたら、裏切られました。

全力で。巻き込まれたくはないですが。
こういう世界でしか生きられない人間はいるだろうと思う。
そこのとこが描けているから、結構、好きだな。

この手の話につきものの、女が出て来なくて。
それが物足りないっていう見方もあるけど。
私は、スッキリしてて悪くないと感じました。

(2018.5.16)
物語の主題ではありませんが。
「効率よりも仕事の完成度を求める人間」は生きにくい時代、
という一節は哀しい真実だなぁ・・・としみじみ。

『テーラー伊三郎』  川瀬七緒

4041056179
KADOKAWA
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ドラマ化したら、いいかも。

面白くなくはなく・・・
とりあえず。
キャラの濃い人ばっかり出てくる。

で。段々、胸焼けが。
なーんかな。戯画的であり過ぎる。
マンガだわ。あ。漫画をバカにしちゃいかん。
不適切な発言、例えだ。ごめんなさい。大失言。

最初、面白くて。
それが、どうも終盤に失速する。
あ。私にとっては、ですけれど。

せっかくなのに。
あ、なんだろう。そう感じた。

素材は良かったのに。
味付けがあまり好みじゃないのよ。

そんなに変人ばかり集めなくてもって思う。
変な人って大好きなんだけど。
多過ぎると、現実味がなさ過ぎるの。

ガチャガチャ感が、持ち味なのかな?
そういうのも決してキライではないんだけど。
ああ、しっくりこなくて。

もったいない。
こんなに、表紙が可愛いのに。あ、違う。
伊三郎さんのキャラも、頑固さも良かったのに。
アクア君も健気で可愛いのに。

話が甘い、甘過ぎるぞ。
リアリティ重視派ではないけど。
妙に話がぺらぺらな薄さに感じられて残念。

ストーリーが、作家の都合で動いてる印象。
随所で、「ないないない」と否定してしまう。

無さそうなことを「あり得る」と感じさせる力が不足。
ちょっとストーリーの細部が雑な感じがする。

いや〜。好きなところ、結構あるんだけどな。
鏤められた蘊蓄が楽しいし。

このノリは上手く調理すれば。
ドラマなんかだといい頃合いになるかも。

あ。伊三郎のこだわりには共感するところ多々あり。
以下、(勝手に)伊三郎語録。

人の顔色を見るな。人とくらべるな。意見を飲み込むな。自分の人生は自分以外のだれにもゆだねるな。

体の中心線で一ヶ所でも地の目が通っていないと、着る人間のほうが影響されるんだ。どこか着づらいとか引っぱられるとか動きにくいって感覚は体が警告を出してんのさ。仕立ての悪い服は静かに骨と筋肉を歪めて神経にも障っていく。

いいか。物には適性価格がある。馬鹿が安売りすれば、それ以上の馬鹿がさらに安い値をつけてくる。そうすれば価格も市場も産地も崩壊して、業界全体の首を絞めるだけだ。安さに慣らされた者は、価値感覚が狂ったまま戻らない。


(2018.4.5)
物語全体が。楽しくて可愛いんですよ。
断然、大好きになりたいような雰囲気でした。
でも。物足りないというか。無駄に騒がしいというか。
どうもな・・・なんだかな・・・
初めましての作家さんだったけど、他に読む気は起きないな。


『妖談うしろ猫―耳袋秘帖』  風野真知雄

4167779013
文春文庫
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思ってたんと違う?

前もってお断りしておきますと。
私は「時代小説」と「歴史小説」がやや苦手です。
いえ。明確にしましょう。

「時代小説」は物によっては好きで。
「歴史小説」は大の苦手。

しかし。どちらも率先して読まないことが共通しています。
なぜ、この本を読んだのかがそもそもよくわかりません。

たいてい、ヒトに勧められない限り読まないのです。
「時代小説」も「歴史小説」も。

でも。今回は違う。ただなんとなく気分転換に?
読んだことない作家を読んでみようと思ったのでしょうか。

人気あるんですね。わかるような気はします。
シリーズの中のスピンオフを読んじゃったらしいです。
だからって、何かがおかしいってこともないですが。

話もキャラクターも出来が悪くない。
ただ、もっと読みたいと思うほどの魅力は・・・
私は感じられなかったです。

それというのも。冒頭で申し上げた通り。
私は時代小説をそれほど好きではないからでしょう。

そう考えると。感想って公平ではないですね。
大好きな古き良きイギリスの時代を描いた小説なら。
きっと私は「また読みたい!」って言ってるかも。

作品の出来不出来だけではなくて。
その物語の背景とか世界観が好きかどうかって。
かなり印象を左右すると思います。

とは言いましても。
「時代小説好きでない人間も魅了する時代小説」なるものも。
実はちゃん存在していたりもするので・・・
本書は残念ながら、そこまでには至らなかった、と。

秀作ではあると思います。
時代劇を読み尽くしちゃったヒトなら読んで楽しめるかな。

私は藤沢周平すらロクには読んでいないので。
読むなら、藤沢周平からにします。

えー。ちなみ藤沢周平は嫌いではありません。
すごく好きでもありません。
でも。安心して読めるクオリティだと評価しています。
(すみません。偉そうで・・・)

時代小説も。
「あ〜いいなぁ」って思うこと、あるんですけれど。
そう言う場合は、時代小説の括りを超えてるのかな。

苦手な分野に対しての方が問答無用に厳しくなってしまうね。
好きなジャンルだと。自分で補足しちゃってる気がする。

瑕疵はうっすら感じられても。
せっかくだから楽しんで読みたいものね。
いいところだけを見てしまうのかもしれない。

愛読してるシリーズものに関しては私も点が甘くなりますし。
ミステリーの駄作も「必要悪」くらいな感じで。
これだけたくさん出版されてたら、仕方ないとも思う。
まぉまぁ楽しませてくれたらオッケー、みたいな。

たぶん。どこか現代的だからかもしれませんが。
宮部みゆきの時代小説は違和感なく読めます。

あと。大昔に読み出したら夢中になったのが。
眠狂四郎シリーズの柴田錬三郎でした。
あれは今でもちょっと読み返してみたい気がする。

あ。何が思ってたのと違うかと言えば。
もっと怪談っぽい、怪しげな話なのかと思ってて。
怪事件っていえばそうなんだろうけどな。

(2018.3.27)
何かがマズイわけでもないけど、相性が良くなかったみたい。
まぁ。時代小説のシリーズ物まで読み出したら時間が足りないし。
助かった、と思うことにします。

『わたしは驢馬に乗って下着をうりにゆきたい』  鴨居羊子

4480422978
筑摩書房
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ああ、誤解。

苦手なタイプの女性筆頭みたいなイメージでした。
鴨居羊子さん・・・こんなに繊細な女性だったとは。

自由奔放という従来の印象が弱まったわけではありません。
だけど。切なくなるくらい、鋭敏な感性を持っている人。
彼女にとっての母の存在が読んでいて胸に突き刺さる。

彼女みたいな行動力を持てる女性(いや性別は問わない)は、
非常に稀であることは確かで。自分とはまったく違うけれど。
気持ちはすごくわかる。考え方には共感する。

行動へつながらず終わる凡人からの遠い憧れかもしれない。
でも、そうは感じさせないくらい、文章が鮮やかで近い。
とてもしなやかな、伸びやかな、率直な・・・
そして。強い。輪郭がはっきりしている。力がある。

私が読み始めてまず思ったのは。
なんなん、文章上手過ぎやん!!!めっちゃウマイやん!
個性的というか、独特やけど。ぐいぐい迫ってくる。
この文章力はケタ外れ。面白い、可愛い、鋭い。

派手で奇抜で悪趣味(ごめんなさい!)な下着と、
不気味な人形とグッズ(あああ、すみません、すみません!)
のお店のオーナーであるド派手なオバサン、という認識でした。

ちょこっと。何か気にかかる気配はあって。
好みではないけれど、無視出来ないオーラがあって。
それでも、行ける距離にあるお店を一度も覗きもせず。

行ったところで、私は気に入ったとも思えないわけですが。
何か伝わってくる、感じ取れるものはあったかもしれない。

新聞記者だった彼女は、デザインの勉強もしていないのに、
いきなり「下着をつくる!」と決めて退社し。
勢いのままに突っ走り続ける人生を送るわけなのですが。

その人生を味でたとえるならば。
苦いでもない、甘いでもない、酸っぱいでもない。
しょっぱいでもないし、辛いでもないし・・・

表現しようのない味のお料理を食べた気分になる。
美味しいかマズいかで言うと、おいしいと思う。
でも未知の味すぎて、美味しいと言いきれもしない。

言えるのは。目が覚めるような味だということ。
誰も作ったことないような料理だということ。

彼女の人生は。
そんなお料理のような、不思議な魅力です。
正直、毎日は食べられそうもないような。

胸いっぱいに広がる思い出なのか、悔恨なのか、
憧れなのか、楽しさなのか、哀しさなのか・・・
心に呼び覚まされるものたちの鮮やかな彩り。

そうだ。料理は目でも楽しむものなんだ。
それはそれは、とてもとても豊かな味でした。

(2017.1.8)
「敬遠したい女性」というイメージだった著者。
その生き方や行動だけ追えば、その印象は覆らない。
しかし、彼女の文章がすべてを変えてしまいます。

あっ!と叫んでしまうような。表現力と個性。
久しぶりに「神々しい」文才に出会った気がします。
彼女の文章に唸りっぱなしで読み終えました。

彼女の絵も実物を観てみたいな。
生き生きとしてチャーミングです。

弟の鴨居玲の絵は昔、大阪市立美術館で観ました。
いつだっけ、と検索してみましたら、1991年。
圧倒される「暗さ」でしたね・・・惹き込まれたなぁ。

とことん「陽性」に見える羊子さんも。
抱えていた孤独は底なしに深かったのだな・・・
  

プロフィール

Author:彩月氷香

とにかく本が好き
読書感想がメインですが
時々、写真や雑記も。

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