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土に書いた言葉  吉野せい

Posted by 彩月氷香 on 24.2010 吉野せい   0 comments   0 trackback
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未知谷
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この本を知ったのは、昨年末、芦屋の市民ホールにて行われた
NHKBSの「週刊ブックレビュー」の公開録画でのこと。

3人のゲストがおすすめの本を持ち寄り、司会者(週替わり)と
アシスタントも交え合評するコーナーがメインの地味な番組。

その日は年末特別番組ということで、
ゲストではなく、司会者4人が本を持ち寄った。

本書の紹介者は、ノンフィクション作家の梯久美子。
合評の席でも評価は高かったが、著者の経歴におそれを抱き、
私はなかなか、読むことができなかった。

詩人の夫と山奥で極貧の開墾生活を送り、
文学への志を押し殺して晩年を迎えた農婦、吉野せい。

彼女は夫の死後、友人の詩人草野心平に励まされ、
75歳にして書き始める。

・・・私は何だか怖かった。

農民の生活を描いた作品、が苦手なのだ。
生きることの過酷さが私の想像を絶し、苦しい。

村の生活というものも、駄目だ。
貧しさがむき出しにする人間性に、向き合うことができない。
昔のことだが、長塚 節の「土」を読んだ時も、言葉を失った。

生きていくのが精一杯の貧しさと、
そこから派生する人間関係のもつれが、私には恐ろしい。
激しく心を揺さぶられ、消化できない塊が胸につかえる。

そんな不安は、すぐ、吹き飛んだ。
吉野せいさんの言葉の、力強い輝きに圧倒された。
文章の切り口は鮮やかで、瑞々しく、75歳という年齢が信じがたい。

貧しさだけでなく、夫との愛憎、貧しさゆえに命を落とした子、
というエピソードを主軸にしながら、清々しい印象。
彼女の精神のゆえだろうか、なんと気持ちのよい文章だろう。

もちろん、底の見えぬ苦しみはある。貧しさも言語を絶する。
しかし、暗さや重さを感じない。諦念による静けさとも違う。

土の香りが生き生きと、光とともに、すっくと立ちのぼる。
書くことを何より望み、しかしそれが出来なかった日々の中、
せいさんは曲がらぬ真っ直ぐな心を保ち、
農婦としての誇りと喜びを持って生きてきたのだ・・・。

ほんとうに、見事というよりほかない。

かえりみると、自分を取り巻く言葉の安さ・軽さに、寒気すら起きる。
自らの生み出す言葉も含めて。

それでも、このような女性がいて、
こんなに美しい言葉を、生涯の最期に紡いだということは、
逆境に押し潰されない魂の輝きの存在を信じさせてくれる。

内容にはそぐわないのかもしれないが、
読んでいて、私は春の青空を思った。

希望に満ちた、晴れやかな空気の満ちた、青空を。

(2010.4.24)
他に紹介された本を参考までに。
西部邁「昔、言葉は思想であった」 (藤沢周)
佐藤正午「身の上話」(中江有里)
ジョン・グリシャム「謀略法廷」(児玉清)
・・・かっこ内が紹介者。


  

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