
ずっと、読みたかった本。
夢中で読めるという評判だったが、始め、そうでもなかった。
俄然、面白くなってきて眠気もふっとんだのは、下巻の中盤から。
そういえば誰かが導入部分は飛ばして読んだ方がいい、と
乱暴なことを言ってた・・・私は、少々我慢して読むことを勧めるけど。
最後に、わっと様々な場面や思いが押し寄せてくる凄味と
読後のカタルシスは、そうじゃなきゃ半滅すると思う。
語り手が入れ子式になってい構成の妙に、最期になって感心した。
「人間て、なんて恐ろしい生き物なんだろう」
豪奢な物語のなか、きらびやかに生きている人々に幻惑されながら、
私は折に触れ、身震いした。・・・そう、恐ろしくて、哀れだ。
読み始めてすぐ、これは「嵐が丘」の日本版だな、と気付く。
どこか狂った一途な愛は、三島由紀夫の「春の雪」を思い出させ、
華やかな姉妹たちは、谷崎潤一郎の「細雪」を、
そして、女の不幸は有島武郎の「或る女」を思い出させる。
ちなみに、私は「嵐が丘」は苦手。なぜか、好きになれない。
「春の雪」は大好きで、繰りかえし読み返している。
「細雪」は、まぁまぁ好きで、2回ほど読んだ。
「或る女」は、日本文学が苦手だった高校時代に無理やり読まされた。
基本、恋愛を扱った小説って苦手で、女の生涯、的なのが、趣味じゃない。
だけど時々、ツボにハマる小説がある。何が違うかは説明できないけれど。
何はともあれ、久々に息をつくのも忘れて読書できて、幸せ。
華やかな毒の散りばめられた、贅沢な物語だった。
没入しきって「自分」を忘れる時間を与えてくれる本は、大歓迎。
どの登場人物にも、ちょっとずつ共感できる。
よう子の我儘は、幼少時に病弱だった私にはよく理解できる。
太郎も三姉妹も、3人の語り手(美苗、祐介、冨美子)にも、何かしら、
ぞっとするほど「わかる」と思える部分がある。
そして、終盤にて太郎が吐いた日本人を評する言葉、
「軽薄を通り越して希薄」
が忘れられずに、頭に残っている・・・。
(2010.5.9)