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バイバイ、エンジェル  笠井 潔

2010.06.04 笠井 潔   comments 0
4488415016
創元推理文庫
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タイトルの軽薄さに手が伸びなかった。
・・・これ、勘違いするよね。
内容が軽そうに見えるじゃない?

幸い、池澤夏樹氏がこの本を含む三部作に言及していて、
それが読むきっかけとなった。

いきなり、パリが舞台で驚かされる。
探偵役となるカケルは、浮世離れした美青年。
中世の牢獄のごとき部屋に住む彼の生活ぶり、立ち居振る舞いは、
かなり非現実的だが、にもかかわらず、彼には確かな存在感がある。

思想が生身の人間性を超えてしまった際に生まれる恐怖を、
自らのものとして背負った彼は、昏い静かな微笑に絶望の影を滲ませて、
彼自身が詩の一節であるかのような淋しい美しさで孤立している。

昔の私ならカケルの苦悩が他人事とは思えなかっただろう。
彼を自分の分身と思うくらいに共鳴したかもしれない。
今では、思想の突き詰められた終末が狂気であることを、
虚ろに遠く感じるばかりだ。

推理の本格物としても一流と呼べるこの小説は、
作為がやや過ぎるにしても深遠に流れる力強い渦が内在している。

人間の孤独が生み出すものは、その人自身のみでは足りず、
周囲の者たちをも蝕んでゆく・・・。
そこには何故か、美しく張り詰めた冷気が漂う。

(1997.11.6)
先日 「刺青殺人事件」のとこで触れた矢吹駆、探してみました。
革命論としても秀逸ですし、哲学の香りも高く、ミステリとしても上出来で、
なおかつキャラクターが魅力的、という本当に言うことなしの小説。
陰のあるクールな美形がお好きな方には、無条件におすすめします。
ただシリーズが進むごとに革命の思想が重くなってきて、
純粋な面白さが減る印象は否めませんが・・・。

  

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