棲月 隠蔽捜査7 今野 敏
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竜崎中年の成長物語。
主人公の竜崎は自信家で石頭で超自己流かつ正義派で。
これだけの要素が揃えばふつう、勘違い野郎か、無能だ。
もしくは有能ではあっても、いずれ自滅する。
そうとは見えなかったけれど。
竜崎は自滅したかもしれなかったんだと今、思う。
長いモノには決して巻かれない彼は。
自分のやり方、考え方が正しいという揺るがぬ自信がある。
正論だけど、それを言っちゃあ、駄目でしょう!
あああああ、そこはテキトーに誤摩化しときましょうよ!
・・・と部外者は余計な心配をするわけですが。
本人はビクともしてないし。ちゃんと通るんですよね、主張が。
彼の信念が通用するのは、読者にとって誠に痛快ですが。
実際にはありえない、夢物語でしょう。
その信念というのは。以下のとおり。
警察官は国民のために働いている。
立場に関係なく自分の能力を最大限発揮するべきだ。
そのためにも常に最も合理的な手段を選んで仕事すべきだ。
・・・という、誠にシンプルなもの。
でもそうはいかないのが世の中ってもんで。
しかし、竜崎にはむしろそのことが「わからない」。
だから、「変人」と呼ばれるわけです。
凡人が「負け」てしまうこと、「曲げ」てしまうこと。
それらと正々堂々勝負して勝つ。それが竜崎という人。
改革者としてのヘンな力みもなく、スタスタ無駄な事を変えていく。
だけど有能過ぎるがゆえに、彼にも「わからない」ことはある。
彼が何がわからないかをひとことで言えば。
「他人の心」・・・とくに「凡人の心」
本人が否定しようとも、彼は一種の「超人」ですから。
それが。大森署の署長を勤めているうちに。
いつの間にか少しずつ、少しずつ、わかってきた。
そのことを本人は「俺は駄目になった」「感傷的になった」
・・・となぜか気に病んだりしていますが。
周囲の指摘通り、彼は「学んだ」「成長した」のですよね。
そして。その学びの成果を抱いて。
いよいよ、次のステージへと進みます。
うん。そうか。そうだったんだ。
これは、竜崎という変人中年の成長物語だったんだ。
だから私はこのシリーズが好きなんだ。
(2018.2.12)
ミステリーとしては御都合主義だと言われても仕方ない。
ストーリーに緊張感もないし。予定調和的だし。
犯罪のタイプを現代的に仕立ててはあるものの、底が薄い。
事件よりも人間ドラマを楽しむのが正解でしょうか。
その点も良くも悪くも安定し過ぎている観も否めません。