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011 life

2010.08.31 life   comments 0
「自分」をつくるうえで大切なことは、相対化すべきもの、絶対化せざるをえないもの、そしてその矛盾を生きるほかないものを見究めようとする<批評>の眼をもつことである。この世の中には欺瞞の「形式」もあれば美意識としての「形式」もあり、真剣に生きるべき「関係」もあれば徹底的に粉砕すべき「関係」もある。

                 勢古浩爾「自分をつくるための読書術」



サマータイム   佐藤多佳子

4101237328
新潮文庫
Amazon

夏に、ぴったりな気がして手にとった。

読み始めてみて、眩しいほどの澄んだきらめきに一瞬、たじろぐ。
しかしすぐ、12歳の姉と11歳の弟、そして二人が出会った13歳の少年の、
短い夏の思い出の中に吸い込まれるように入りこんでいく。

鮮やかな情景・・・そこには、子供の目線でしか捉えられない、
光と色彩と風と温度のようなもの、大人が見るのとは違う夏の気配がある。

心優しい弟、進。気が強く癇癪持ちでとてもキレイな姉、佳奈。
とてもキレイ、のところを省けば、私も似たような「姉」だったかもしれない。
よく弟にあれこれと命令していた記憶がうっすらと甦る・・・。

彼女が自転車を買ってもらった弟に対して、
これはサベツだ。私は、ずっとずっと小さい時から、弟が自分よりいい思いをしないように、気をつけてみはっていたのだ。
と心につぶやくところ、同じ年頃の私とあまりにそっくりで、笑ってしまった。

自転車どころかピアノを買ってもらったのに、その有難みが全く理解できず。
壊れたら新しい自転車を買ってやる、という父親に
「じゃ、すぐにこわすわ」と本気で(!)言う。何て、わがままな・・・。

そんな姉弟が、広一という、父親も左手も事故で失った少年に出会う。
3人の夏を描いた表題作(進の視点)に続く、
「五月の道しるべ」(佳奈の視点)、
「九月の雨」(広一の視点)、
「ホワイト・ピアノ」(再び佳奈の視点)。

4作ともピアノが重要なモチーフとなっていて、
読んでいる間、ピアノの音色が背景に鳴り響き、
作品の持つリズムを増幅してより生き生きと伝えてきた。

「九月の雨」を読みながら私は泣いていた。
私と共通点はないように思える広一の、何かがとても哀しくて。
痛ましくて、美しくて。でも羨ましくて。
ううん、理由はやはり、よくわからない。

言葉にできず押し殺した沢山のものが、人の心には眠っている。
そのことを広一の姿が思い出させるのかもしれない。

ジャズピアニストの、彼の母親もとても魅力的で。
世間一般の規格を外れた母を持つ息子の苦労を案じつつ、憧れてしまう。
しかし、この二人の毅然とした淋しさは、胸にこたえる・・・

最後の一篇を読み終わった時もまた、
私は頬を涙が伝わっていくのに首を傾げながら、
瑞々しく爽やかなのに荒々しい程の力強さをもった物語の余韻に浸りつつ、
重なるように再生される自らの思い出の数々に為すすべもなく翻弄され、
頭の中にきらきらと降るピアノの音色に、呆然と耳を傾けていた・・・。

(2010.8.28)
感傷的な感想でごめんなさい。
作品そのものは、さらりとした風合いの小説です。
読むなら、絶対に夏がおすすめな本。
3人が「海」を食べるシーンがとても印象的。


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正しく時代に遅れるために  有栖川有栖

4062137496
講談社 Amazon

これは・・・困った本だ。

私にとって困った本にも色んなタイプがあるので、説明すると。
①つまらない本・・・これ、説明不要よね。

②難しい本・・・ナニやら良さげなこと書いてるけど理解出来ない時、悔しい。

③数字が多い本・・・途端に私の読解力が半滅します。

④カタカナの固有名詞が多い本・・・ロシア文学がその筆頭。大好きなんですけれど、私カタカナに弱くて。ドストエフスキーを長年ドエトフスキーと間違えて読んでた(汗)。他にも同様の事例あり。気付くまでに数年が経過してたりするから怖い。

⑤出来は素晴らしいのに無性に嫌いな本・・・一般評価なんて気にしない性質で、絶賛されてる小説を「どこが良いのさ」と切り捨てても平気なんですけど。ちゃんと「良い作品」とわかるのに、大嫌いだったりすると、そんな感情的すぎる自分の精神の貧しさに涙が・・・。

⑥好き過ぎて今すぐ買いたい本・・・だから買えないんだってば、貧しくて。

⑦注釈の多い本・・・全部読まなきゃ気がすまないので読むけど疲れます。

⑧自分の厭な思い出とリンクする本・・・苦痛。読むのをやめることも。

⑨暴力・流血・残虐シーンの多い本・・・描き方にもよるが、これも疲れる。

⑩文体が超・独特な本・・・新しい試みは評価したいけど、やり過ぎはダメ。

⑪あり得ない日本人や日本文化を登場させる海外小説・・・苛々するっ!!

⑫翻訳が度を越して下手糞な本・・・最近は減ったけど、昔はよく見かけた。

⑬装丁が大嫌いな本・・・カバーをすれば解決するんですけどもね。

⑭好きになれない挿画が満載な本・・・ああ、絵がジャマ、ジャマ・・・。

⑮素敵な本をいっぱい紹介してくれる本・・・これ、長所のようだけど、ただでさえ読みたい本を読みきれずにヒーヒー言ってる私には、最も罪の重い本。

うっ。書き始めたときは、5つくらいなつもりだったのに・・・

ごめんなさい、しょっぱなから大脱線しましたが、ここから感想に入ります。
さて、この本は上記のいずれのタイプに属するのでしょう?


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オーデュボンの祈り  伊坂幸太郎

4101250219
新潮文庫
Amazon

伊坂幸太郎という小説家をはじめて知った時の衝撃が甦った。

忘れ去られたまま秘かに存在し、独自の文化で100年も発展してきた島と、
島民たち、そして、その中心に神のごとき存在として立つ、喋るカカシ。
そのカカシは未来を知りつつもそれを語らない。
そんな島のなかでは人も出来事も、とことんおかしいが、
おかしいこと続きで、やがて何がおかしいかわからなくなってくる。
・・・リセットされるのだ、現代の常識から。

この独特な、異次元なリアリティ。
初めて読んだ時、なんだ何だナンナンだ、これは・・・と呟きながら、私を驚かせる「新しさ」を持つ小説家が存在していたことに狂喜したものだった。
「~風」と何を読んでも分類できてしまうくらい、ありとあらゆる小説を読んできた私にとって、この「新しい!!」という感動は何にも替え難い値打ちがあった。嬉しくて嬉しくて仕方なかった(「砂漠」を読んだ時のことである)。

しかし作品が片っ端から映画化される人気者になって以来、遠ざかっていた。
人気があり過ぎて図書館の書架に本が並ばない(常に予約で埋まってて)のだ。
でもそこまで惚れ込んだ作家なら、文庫でも買って読めばいいじゃないよね?

失望するのが怖かったんだろうな。
それと、特別な作家を読みつぶしてしまうのが・・・。
過去に私、何人かの作家を気に入ったあまりに全作品一気読みして、
消費しつくしてるから。それも狂乱の日々が明けてみると虚しいもので・・・

弟に勧めたら、読書習慣の全くない彼がハマり、
帰省の度に読み終えた本を持ってきてくれるようになったので、
年に一冊くらい読むことができた。これくらいが丁度いいペースな気がする。
ただ、弟君、短篇しか読まないんで(笑)、長篇は長いこと読んでなかった。

久々の長篇として、先日「ゴールデンスランバー」を読んだら、
あまりにも普通な面白さで、ちょっとガッカリしてしまった。
それは、私が期待してる「伊坂幸太郎」では、なかった。

じゃあ、一体ナニを私は期待していたのか?
それが満たされた本書その他、伊坂幸太郎の魅力は何か?
えー、大風呂敷を広げて収拾つかない恐れがありますが、続く・・・


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心の整骨  003 person

2010.08.28 person   comments 0
ほっそりとして、彫刻のように威厳があり、自然な優雅さと上品さが漂っている。声も甲高くなく、ソフトでやさしかった。声にはうるさいジュリアンにも、実に心地よく響く声だった。だが、もっとも彼の興味を引いたのは、彼女のもの静かさだった。あんなにじっと座り、それでいてまったく自然に、ゆったり寛いで見える女性はそうはいない。

                ケイト・ロス「ベルガード館の殺人」




  

プロフィール

Author:彩月氷香

とにかく本が好き
読書感想がメインですが
時々、写真や雑記も。

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  • 2010年08月

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