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『午後の曳航』三島由紀夫

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新潮文庫
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三島由紀夫の美学が、ぎゅっと詰まった一冊。

主人公は、「欺瞞」というものに、あまりにも敏感過ぎる少年。
そういう時代は、誰にでもあって・・・。
懐かしく感じつつも、むず痒いような、気恥ずかしさを感じる。

その、若さゆえの潔癖さは、しかし歳月とともに擦り減っていく。
消えずにもしも、保たれたなら、その奇跡は当人にとって呪いとなる。

三島由紀夫本人が、きっと、そうだったのだ。
だからこそ、書き得た作品群の、美の残酷と腐敗臭。
退廃の奥の、冷めた視線。華やかさの裏の、皮肉に彩られた純真。

彼は、紛れもない天才だった、と。
著作を読むたびに、感じずにはいられない。

(2011.4.16)
「美」と「醜」が隣り合わせにあることを、常に濃厚に感じさせる。
そして、そのどちらもが強い光を放って同等に艶やかである。
美は決して寛容ではない。多くの犠牲の上に立つものだ、と。
その残酷な現実を、この上なく美しく描く・・・
なんと嫌味な才能の持ち主だろう!惚れ惚れさせられる。



彼女について  吉本ばなな

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文藝春秋
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なつかしい。

「気持ち」になる前の、胸のなかに浮遊する、
秘かな息遣いのような、「想い」の断片。

光を充てると、ふときらめいてその存在を知らせる、
細かな塵のように、捉えどころのない微細なるもの。

その儚いもの達は、見えないふりをした方が、
日常が円滑に過ごせるから・・・

日々の雑事に抹殺されて、ただの「もやもや」として、
ひとまとめにして、心の中の「何でも箱」に放りこんである。

よしもとばななさんの本を読むと。
それらの強制的に眠らされているものたちが甦ってくる。

その表情の、多彩な美しさに胸が痛む。
半分、目を閉じて、半分、耳も閉じて、偽りの平穏を生きる自分。
それゆえに失ったものの、今は遠く思える静謐な輝き。

日常の細部への細やかな愛情。
一瞬、一瞬のきらめきをつぶさに追い続けて紡ぐ心模様。
それが健やかに存在できないほどに、病んでしまった世の中で。

繊細な感受性は、それを保ち続ける人自身の心を壊し続ける。

哀しくて。怖くて。
人はどのみち、ひとりぼっちなのであれば。
せめて、自分を信じて、澄んだ心で生きていたいのに。

救いのない現実に、それでも癒しが生まれる不思議。
ひりつくような痛みに沁み入る優しさと安らぎ。

ありがとう。

(2011.4.22)
もう、だいぶ以前に手放してしまったけれど、
著者の「哀しい予感」という作品が、大好きでした。


あたらしいみかんのむきかた  岡田好弘 神谷圭介

4092271468
小学館
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「ねずみね!むきお。これ、ねずみね!そうなのね。」
むきおくんはいいました。
「干支をむくよ。」
「え?」
「干支をすべてむく」そういったんだよ、おかあさん。
「むくのね、むくきなのね、むきお」
むきおくんは しずかにうなずきました。

ずっと、この調子なんですよねぇ~。かなり、笑えます。
小学生のむきおくんが、みかんの皮をせっせと剥き続ける、
という物語仕立てになってるのですよ。

で、彼のいもうとが、むきみちゃん(笑)もう・・・何をかいわんや。

みかんを上手く展開してきれいに動物の形に剥く、いわばみかんアート。
切り落とす部分がないので、これは賢い人が考えたのだな、と感心する。

著者の経歴を見てみると、大阪出身の札幌在住。芸術大学卒の牧師。
う~ん、かなり、ヘンな人・・・な気がする。
むきおとか、むきみとかいう、ネーミングセンスは関西人の血がなせる技!?

(2011.4.13)
去年の秋に予約したのに!!!
大人気の本で、手元に来たのが、今。もう、剥きたくてもみかんが無い!
ああ、残念。私も、むきおに負けずにみかんを剥きたかった!
小学生向けなのか、不気味なほど、ひらがなだらけで戸惑いましたが。
慣れてくると、妙にこの、ひらがなだけの文が新鮮だったりもして。
すごく、楽しい本でした。ああ、実際に剥いてみたかったなぁ。



『まほろ駅前多田便利軒』三浦しをん

4163246703
文藝春秋
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過去がありげな、とある男。
まほろ駅前で便利屋さんを営んでおりまする。

そこへ、高校時代の同級生の男が転がり込んできて。
何やら、彼も訳あり気な様子・・・。
そして始まる奇妙な共同生活。日々の事件。

二人の間の、微妙な距離感。どことなく色気がある。
いや、恋愛ではない。なんか、この雰囲気は少女漫画チック?

それでも、虚しさやら、正義やら、絶望やら、希望やら。
痛々しさが清々しいという、青春の香りがする。
その傷も、どこかオシャレに見えつつ、嘘っぽくない。

いいな。こんな風に生きるのも。
危ういバランスのものって、何故うつくしく思えるのだろう。

独特な「間」があって。ゆったりした空気が流れています。
不思議な落ち着き・・・ちょっと苦みのある寛ぎ空間。

(2011.4.3)
映画化してますよねぇ・・・うう~ん。主人公二人のキャストが。
私的にはピンとこない。観るべきか観ざるべきか、只今、悩み中。


『ネバーランド』恩田 陸

2011.04.20 恩田 陸   comments 10
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集英社文庫
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男子校の寮で冬休みを過ごす4人の少年。
おっと。どうした、この少女マンガなノリは!

それぞれの秘密が徐々に明かされていく七日間。
う~ん青春。なんとまぁ心地よくもナイーブな。

暗い過去、重いしがらみ・・・不自由な身の上ではあっても。
いいなぁ。いいなぁ。きらっきらしてるなぁ。若いもんなぁ。

少女より、少年の方が楽しそう、と密かに思っている私。
これって、まさに理想的な少年生活だなぁ。
何とも気持ちのよいほろ苦さと吹き抜ける爽やかな風。

今はもう恩田さん、こういう作風では書かないんだ。
残念・・・この雰囲気、大好きなのに。

著者がとても楽しんで書いたんだなって感じる。
リアリティ?それがどうした!
どこかに、こういう素敵な少年たちが存在してると思いたい。

恩田陸さんに特有のノスタルジックさが、
いつもの毒々しさで彩られず、拍子抜けするほど、
美しく素直に物語が進行する。

じゃあ物足りないかというと、それもなく・・・
時々、こういうのも書いて欲しいなぁ。

(2011.4.6)
恩田さん、低体温な雰囲気の小説を書く人だと思ってましたけど。
肌のぬくもりのある小説も、ちゃんと書けるんだな。意外でした。


  

プロフィール

Author:彩月氷香

とにかく本が好き
読書感想がメインですが
時々、写真や雑記も。

*初めましてのご挨拶
*ブログタイトルの由来

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