『午後の曳航』三島由紀夫
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三島由紀夫の美学が、ぎゅっと詰まった一冊。
主人公は、「欺瞞」というものに、あまりにも敏感過ぎる少年。
そういう時代は、誰にでもあって・・・。
懐かしく感じつつも、むず痒いような、気恥ずかしさを感じる。
その、若さゆえの潔癖さは、しかし歳月とともに擦り減っていく。
消えずにもしも、保たれたなら、その奇跡は当人にとって呪いとなる。
三島由紀夫本人が、きっと、そうだったのだ。
だからこそ、書き得た作品群の、美の残酷と腐敗臭。
退廃の奥の、冷めた視線。華やかさの裏の、皮肉に彩られた純真。
彼は、紛れもない天才だった、と。
著作を読むたびに、感じずにはいられない。
(2011.4.16)
「美」と「醜」が隣り合わせにあることを、常に濃厚に感じさせる。
そして、そのどちらもが強い光を放って同等に艶やかである。
美は決して寛容ではない。多くの犠牲の上に立つものだ、と。
その残酷な現実を、この上なく美しく描く・・・
なんと嫌味な才能の持ち主だろう!惚れ惚れさせられる。
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