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破天   山際素男

2012.05.04 仏教   comments 2
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光文社新書
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仏教に対する興味が少しずつ高まっていく中で。何気なく手にした本。

佐々井高嶺という、現代インドで一億五千人以上もの信奉者を持つ、
インド新仏教の指導者の波瀾万丈の人生を描いた本と知り、
私がまず抱いた思いは。「読むのやめようかな」だった。

どうにもカリスマという存在が苦手なのだ。
それが指導者であれ、アイドルであれ、ミュージシャンであれ、
芸術家であれ、美容師であれ、思想家であれ、教育者であれ・・・、
圧倒的な影響力や信望者を持つ人間というものを、
私は昔から、ことさらに冷めた目で見てしまう性分である。

長年教会に通いながら、とうとうキリスト教徒になり損ねたのも、
イエス・キリストという歴史上でも屈指のカリスマを、
どうしても生理的に受け入れることができなかったからだ。

現代のインドで日本人が仏教を復興させようとしてる?・・・胡散臭い。

同様の読者を想定してだろうか。まず宮崎哲弥氏の解説から本書は始まる。
通常、本文の後に添えるべき解説を先頭にもってきたのは、
多くの人に読んでもらいたいと、著者か出版社が知恵を絞ったのだと思う。

私もTVでお馴染みの宮崎氏の顔を思い浮かべ、放り出すのを思い止まった。
しっかりと戦略にはまったワケである。それでも不信感は消えていない。

猜疑心たっぷりに「まぁ読んでやろうか」と上から目線で読み始め、
気がつくと、600ページ近い大著を一気に読み切っていた。
ページをめくる手がとまることは、一度もないままに・・・

「なせばなる ならぬは己のなさぬなりけり」と自らを叱咤し、
死ぬ気になればなんでもやれる、と。ガムシャラに生きてきた男。
突っ走っては壁に勢いよくぶつかり、跳ね返ってひっくり返り。
ボロボロになりながら、何度も何度も立ち上がり、また走った。

色欲の並外れた強さに苦悩し続け、それが原動力の一つでもあった。
(小学生で女を知っていたという絶句するような話も著者に明かしている)

真摯で率直、という資質は幼少時から変わらないが。
それゆえ空回りして注意に迷惑をかけ、人を傷つけては死ぬほど悔い。
仏の道を歩み始めてからも、どこかに収まることが出来ず放浪の日々。

彼はインドを目指したわけではなかった。
聖人になろうとしたわけではなかった。

徹底して自分を追いつめる彼は醜悪な自分すら公平に扱った。
そして、どこまでも自分に正直に生きようとした。
そこから次の行動が生み出され、その行動の中で思想を育んだ。

やがて。いつしか「高潔の士」と言われるまでになった。
(本人は救いようのない凡愚と自らを評している)

彼の手記の、自らを罵倒する言葉の羅列の激しさ。
誰しも同様の念に駆られることはあるだろうが、
これほどまでに容赦なく徹底できるものではない。

彼の業績からすれば偉人伝となるべき書物だが。
それよりもワクワクする冒険譚という様相が濃い。
彼の身体と魂、双方の命がけの旅の記録なのだ、この作品は。

周囲を彩る人々の数々の物語もまた、忘れ難い。

「日本に帰ってバンテージのお母さんに会う機会があったらこう伝えて下さい。お母さん、あなたは大変な子供を産んでくれました。インドを動かすような人物を育てて下さり、私たちに授けて下さいました。私たちは本当に心から感謝しています」

なんと素敵な言葉だろう。バンテージというのは佐々井のこと。
インドの民衆にこれほどまでに慕われ、信頼されるようになったのは。
背景に、カースト差別の歴史の中で根付いた人間への不信感がある。

佐々井は自らの生き方を陽の下に示し、それを打ち破ったのだ。
聖人だとは思わない。しかし凄い男だとしか言いようがない。
圧倒されながら、妙に清々しい。心に青空が広がるようだ。

私が常日頃、持論として抱いている「絶望できるのは才能」という
思想を鮮やかに裏付けてくれたからかもしれない。

(2012.4.24)
絶望が深ければ深いほど、人の魂は磨かれるものだと信じています。
弱いから絶望するのではない、絶望する精神力を待たぬ人間の方が弱い。
だから、絶望に至る前に引き返してくるのは私は偉いとは思いません。
やたらとポジティブであることには同意しかねるのです。


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面白そうな本ですね。
彼はまるで親鸞のよう。自分に絶望し、地獄は一定の住処とまで開き直った。

絶望の手前で逃げ道を用意しておくのが凡人なら、その絶望に至るのは奇人であり、聖人なのかもしれません。

信仰は「神も仏もあるものか」から始まる。
これは僕の持論です。
2012.05.04 21:45 | URL | かかし #JyN/eAqk [edit]
はい、とっても面白いですよ。
なるほど、親鸞ですか。

私は逃げ道を確保出来ない不器用者ですが。
よって、しばしば絶望に向かってまっしぐらになりますが。
底に足が着きかけたら、飛び上がって脱出するタイプ(笑)
地獄の底までは行けませんよね・・・残念ながら。

信仰に至るほど、追いつめられてはいないのかもしれません。
だとしたら、それはそれで幸せなことなのかな・・・
2012.05.05 10:52 | URL | 彩月氷香 #- [edit]


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2012.05.05 10:48 まとめwoネタ速neo

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Author:彩月氷香

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読書感想がメインですが
時々、写真や雑記も。

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  • 2012年05月04日 (金)

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