Loading…
 

共喰い 田中慎弥

4087714470
集英社
Amazon

川の臭いがする。澱んだ水の気配に包まれている。
血と暴力と性に塗込められているはずなのに、
不思議なくらい、そこには閉塞感がない。

あらがい難い欲望や業に馴染んでいても、
どこか淡々として端正な顔つきをしている。

極めて小説らしい小説。純文学のお手本のような。
描かれる舞台のせいばかりでもなく、郷愁を漂わせている。
毒を込めても涼しげな表情であることは、美点なのか瑕なのか。

無駄も無理もなく、退屈でもない文章は、完成度が高い。
著者本人のイメージに重ならない、器用過ぎるとも言える手並。

惹き込まれて一気に読まされて。ほうっと思わず溜め息をついて。
充分に満たされながらも、よぎる懸念。

題材のインパクトを取り払った時に文章の上手さ以外に残るものはあるのか。
いや作品全体を染める近年珍しいくらいの正統な文学性以外に何かあるのか。

描かれる想いは一見、熱を孕んでいても。
身を蝕むような切実さとは質が異なっている。
そこに不足を感じさせない程の力量があることが、
著者の不在を覆い隠している・・・そんな気がしてくる。

(2012.5.25)
辛口な批評になりましたが。とても感心して読んだのです。
ベタ褒めするつもりで書き始めたのに・・・気付いたらこのように。
ここに描かれているのが「彼」の問題ではないと感じられたことが、
私にはどうしても、ひっかかってしまったのです・・・。

誤解のないように言い添えますが、芥川賞受賞には納得できます。
著者の巧さは手先の器用さではなく、足元がしっかりしています。

円城塔さんと比べるとしたら・・・あまりに作風が違って難しいですが。
どちらかを選べと迫られたら迷わずに、田中慎弥さんになります。

ただ。個人的に。円城塔さんの作風の方に「伸び代」を感じます。
「わからないことを楽しむ」という新鮮な読書体験を与えてくれるのは
得難い個性だと思いますし、それが技巧を凝らした諧謔ではないことを
読み手に伝える核のようなものを持っていらっしゃるので。

まぁ。とにかく。今年の芥川賞にはかなり満足です。
お二人の作品は既に多く出版されているので、いずれ読んでみようかと。

余談になりますが。
本書に併録されている「第三紀層の魚」の方が表題作より好きです。
地味で新鮮味はなく往年の文学調、と酷評され得るかとも思いますが。

主人公の少年の目線にすんなり入って行くことが出来、
同じ年の頃の自分の面影に重なりながら生き生きと蘇ってくる、
幼さゆえの葛藤や感傷や願望や倦怠が懐かしくも痛々しくて。
妙に、ほっとさせられる作品なのです。


ほとんど貴方と同じ感想で、違いは一つだけ(笑)。

「文藝春秋」に受賞作として同時に掲載された『道化師の蝶』が面白く、どちらをとるかと言えば蝶の方。これが違い(笑)。

ただ『共喰い』を推奨するのは、小説への愛情という点で共感できる。蝶の方はこんなのが小説?というのがあるから。

『共喰い』は読み始めて中上健次を連想したね。血の匂いのするところや土地にべたっと密着した感覚。

しかし読み終わって、作者の主題は何なんだという疑問が…。中上のような紀州の闇の世界に突き進む主題=宿命が感じられない。部分的には面白いところがあるんだけどね。この小説に関する限り、作者はまだ自らの主題=宿命を発見していない。或いはそんなものは彼には無いのか。
2012.06.06 20:44 | URL | はま・むね #- [edit]
中上健次、苦手で・・・。似ているという声ありますね。
宿命も主題も、私も感じませんでしたね。
父の不在と母への愛が感じられるくらいでしょうか。
ええ。あんなに濃密に描かれているようで父親が空っぽ。

「道化師の蝶」を面白いと感じる人は限定される気が・・・
いい悪いではなく、読者を選び過ぎる感じがするのです。
情緒に訴える部分がなさ過ぎるところが小説としては難しい。

そこが既に個性になっているとは思うのですが。
2012.06.06 21:57 | URL | 彩月氷香 #- [edit]
こんばんは。
体調いかがでしょう?
共食い、たしかにどこかホッとさせられる作品なんですよねー。
記憶の川の底にペチャりとこびり付いている、懐かしいにおいが漂うというか。
汚泥にまみれて、汚い鰻の頭が飛び出しているような所なんですけど。
否定しきれない、あのクサさが好きです!
2012.06.07 01:07 | URL | #JyN/eAqk [edit]
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2012.06.07 11:07 | | # [edit]
腎盂炎じたいは治ったのですが。
持病の方が復活したのか、実はイマイチです^_^;

泥臭さが魅力というのはあるかもしれませんね。
なにかしら掴みきれないというか。
肯定しきれないながら、惹かれるものはあります。
2012.06.08 10:15 | URL | 彩月氷香 #- [edit]
「主題は何か」なんて、いつも考えないんですよ。
読んでいて朧にでも感じられるものがあればいいと思ってます。
それは読者にゆだねられているであって、正解はない、と・・・。

鍵コメさまの予測もあり得るんじゃないかしら。
私は、父の不在と母への愛(やや屈折した)を感じました。
具体的な何か対象を特定しなくても、たぶん。あ。そうだ。

「逃げたいけれど逃げられない」
という想いを描いたものなのかもしれませんね。
それは好きにはなれない「自分自身」でもあるかもしれない。

「父」は逃げ出したいもの、消し去りたいものの象徴なのでは。
だから実体のないもののように感じたのかなという気がします。

それに決着をつけたのが自分ではなく母だった、ということも。
自らのふがいなさという通奏低音になって流れているかな・・・
母の愛に気がついてはいるけれど、応えられないことも含めて。
もっとも、母は報いられることは望んでいないでしょうけれど。

鍵コメ様のおかげで、今頃、頭がちょっと整理されました。
これも正解ではないと思うけれど、私なりの受け止め方として。
やっぱり。「母」がキーワードだと気付いてらっしゃいましたね。

で。「母」の立場になるか「子」の立場になるか。
これは読む側の現実を映してもいるのでしょうねぇ。

ブログには書けないことってありますよね・・・
私もこの本の感想はとても書きづらかったです。
いえ。近頃、どうにも調子がつかめなくて苦しんでます。
2012.06.08 10:35 | URL | 彩月氷香 #- [edit]
とても魅力的な記事でした!!
また遊びに来ます!!
ありがとうございます。。
2012.06.21 19:21 | URL | 株の講座 #JyN/eAqk [edit]
こちらこそ、嬉しいコメントありがとうございます。
どうぞ、また遊びにいらしてください。
2012.06.22 18:04 | URL | 彩月氷香 #- [edit]


  • 管理者にだけ表示を許可する

trackbackURL:http://raffiner.blog70.fc2.com/tb.php/1510-9d02cdea

プロフィール

Author:彩月氷香

とにかく本が好き
読書感想がメインですが
時々、写真や雑記も。

*初めましてのご挨拶
*ブログタイトルの由来

<別館のご案内>
Instagram
99%、花の写真です。

moleskine絵日記
ちいさな絵日記。

表示中の記事

  • 共喰い 田中慎弥
  • 2012年06月06日 (水)

カテゴリ

最新コメント

データ取得中...

月別アーカイブ

***