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星野道夫 永遠のまなざし  小坂洋右 大山卓悠

2012.05.30 共著   comments 4
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山と溪谷社
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動物写真家、星野道夫の死。
クマの生態は熟知していたはずの彼。
何故、熊に襲われて亡くなるという悲劇は起きたのか?

生き方そのものが敬愛される思索家でもあったために、
いっそう、その事故が投げかけた波紋は大きかった。

彼は実は動物のことを理解していなかったのではという疑い。
自分の経験を過信して、油断と不注意があったという見解。
そのどちらも認めたくなくて、ただ謎のまま忘れようとする人。

星野道夫と親しく、それらの姿勢に納得できなかった人々がいる。
事故には隠されてしまった真実があることを感じ取り、
死の直後から追い続けた・・・それが本書の著者二名。

そして十年。考え抜いて、苦渋の思いで出した答え。
「誰も悪い人はいなかった。しかし同時に正しい人もいなかった。」

残念ながら、あれは避けることが出来た事故だという結論になる。
危険なクマの存在を当事者たちは認識していた・・・星野道夫を含めて。
そのクマは、「餌付けされたクマ」であり。
星野道夫が愛してやまなかった野生のクマとはかけ離れた存在だった。

だが。そのことを。知っていたはずだと・・・
なのに、どうして撤退しなかったのか。
それについては、この本を読んでみて欲しい。

星野道夫の弁護、あるいは神格化ということはせず、
お二人は誠実に事実に向き合って書いておられます。

その場にいなかった人間が出来ることは。
どれほどの取材と考察を重ねても、憶測でしかない。
しかし、彼らの言葉は改めて「星野道夫」の生き方を、
多方面から浮かび上がらせている・・・その意味と価値を。

「星野道夫が残してくれたもの」と名付けられた最終章が示すように。
それは個人の生死の問題ではない。彼が絶えず静かに問い続けていた、
「自然と人間の共存」という課題、そこから過去と未来へ繋がる物語。

大げさに響くかもしれませんが。
私は星野さんの著作を読むたびに宇宙に思いを馳せ、
彼の名を耳にするだけで、自分の遠い先祖が語りかけてくるような、
深く原始的な懐かしさのようなものを感じていました。

どんなに華やかなスターよりも、才能溢れる芸術家よりも。
私にとって憧れの人でしたから。とても冷静には読めなくて。
幾度もこみ上げてくるものを堪えながら頁をめくりました。

知らなかった星野さんの一面も見ることが出来ましたし、
彼の行動について、今までと少し違う方向から光を当てて、
新たに考えてみる機会もたくさん与えられました。

本書に引用されていた、私の心にも強い印象を残していた言葉。
(星野道夫の遺作『森と氷河と鯨』より)

けれども、人間がもし本当に知りたいことを知ってしまったら、私たちは生きてゆく力を得るのだろうか、それとも失ってゆくのだろうか。そのことを知ろうとする想いが人間を支えながら、それが知り得ないことで私たちは生かされているのではないだろうか・・・・。

本書の中で、特に私の心に残った見解があります。
小坂氏が「ひとつの見方」として書いていることですが。

大自然の中で暮らすには慎重でなければ命を落とす危険がある。
しかし常に慎重である人はストレスで精神を病んでしまう。
よって生き延びるためには慎重さと同時におおらかさ、鷹揚さも必要だが、
至る所に危険のある土地において「勇気」と「無謀」の線引きは難しい。

(ざっと要約しましたが、意味は曲げていないと思います。)

星野さんは「勇気」と「無謀」の狭間を生きていたとも言えるかもしれない。
だからこそ、あれだけ深く土地に根ざした眼差しを持つことが出来た。
そう思ってみても、尊い人を失った哀しみは決して消せない・・・。

(2012.5.24)
いささか感傷過多な感想になってしまい、申し訳ありません。
しかし本書は星野道夫に興味がない人にも読み応えのある内容です。
動物学と人類学という見地から自然を考える機会を与えてくれます。


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星野道夫さんの死に方については、ぼくもなんだか不自然さを感じていました。
あるいはその不自然さが、星野さんを特別な地位に押し上げる、控えめながら一つの理由にもなっているのかな、と邪推をしたことがあるので、この本には興味があります。
引用文、とてもステキな言葉ですね。
2012.05.31 00:05 | URL | #JyN/eAqk [edit]
大山卓悠さんに至っては。
星野さんと同じ暮らしをすれば当時の状況が理解出来るのでは、と。
写真を撮りながらアラスカでテントを張って暮らしたそうです。

「謎」が人を魅力的に魅せる一面は確かにありますよね・・・
彼を実際に知る人には、それも承服しかねることだったでしょうね。

星野さんの死の真実を知りたい気持ちから出発しながら、
それ以上に大きな問題に直面する内容になっています。
星野さん追悼の意味合いが強い多の書物とは一線を画す良書です。

この本を書いて下さったお二人にお礼を言いたい気持ちになりました。
生きていたら星野さんは、また違う一歩を踏み出していたかもしれない、
そんなことも夢想させられます・・・

大山氏のお嬢さんと遊ぶ星野さんのエピソードは微笑ましいです。
お客様のもてなし方など、ほんとに可笑しくて。
クマの生態についてや、エスキモーの文化についても、
現場の視点と学術的な視点が合わさった考察に感心しました。

ぜひぜひ。機会があれば読んでみて欲しい一冊です。
2012.05.31 13:40 | URL | 彩月氷香 #- [edit]
この本はあまり手に取りたくないな・・と思っていたのですが、ブログの内容から 一度読んでみようと思いました。ありがとうございます。
2012.06.03 13:53 | URL | 三浦 博志 #JyN/eAqk [edit]
私も実は読むのを、ちょっと躊躇しました。
正直言うと、怖かったのです・・・
興味本位に事故の責任を追及する内容だったり、
反対に盲目的な星野道夫礼讃だったら・・・と危惧を抱いて。
でも、読んで良かったなぁと心から思いました。
星野さんは多くの人に本当に愛されていたことを改めて感じ。
その理由もさらに深くわかるような気がしました。
哀しみもまた新たに湧きあがっては来るのですが・・・
大山氏が娘さんを連れて星野さんの家に泊まった時の、
エピソードがとても微笑ましくて素敵です。
ぜひ、恐れずに読んでみて下さいね。
2012.06.05 10:54 | URL | 彩月氷香 #- [edit]


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2012.05.30 18:33 まとめwoネタ速neo

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  • 2012年05月30日 (水)

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