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ボタニカル・ライフ  いとうせいこう

4101250146
新潮文庫
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電車の中で読んでいたのだが。
何度笑いをかみ殺したことだろう。

抑えたつもりが気味の悪い笑みとなって、
頬の辺りに「ニタニタ」と浮かんでいる気がして。
その都度ハッと顔をあげて、こっそり周囲を見回した。

庭がないから、ガーデニングではない、と。
つまりは、ガーデナーではない。じゃあ何か?
「ベランダーだ!」と宣言する著者の園芸日記。

カレル・チャペック「園芸家十二ヶ月」にひどく感動し、
矢も盾もたまらず、ホームページに書き始めたという。

私自身が、というのは嘘になってしまうが。
両親、主に母がベランダーである。
ゆえに、いとう氏の嘆きが具体的にイメージできる。

彼が育成に四苦八苦している植物の大半は、
我が家のベランダをも通過していったものたちだ。

リアルに著者の苦楽に共感出来るという以外に。
彼の植物への愛の、美化されない我儘さにヤラレる。
うっわ〜。それ、ブチまけちゃいますか!

身も蓋もないことをガツンと書いても。
それはただひたすらに面白くて、妙に愛しくて哀しい。

本人も著作の中で口にしていたが。ハードボイルドなのだ。
それはオシャレなコートをわざと汚して着るような、
強がりの美学というか。うーん、そんな格好いいもんじゃない?

陽気なクリスマスに嫌悪をおぼえるからポインセチアは買わない。
「シクラメンのかほり」の「かほり」が受け付けないから、
そしてとにかく女々しく凡庸な花だからシクラメンは買わない。

と、ヘンなこだわりにも事欠かない著者だったりするが。
ついうっかりとシクラメンを買ってしまう・・・その顛末。
自らの心模様の変遷をレポートする彼の文面が傑作だ。

何度枯れても、蓮を買ってしまう話やら。
水草が欲しかっただけなのに、金魚に振り回される話。
結婚してもいいと惚れ込んだアマリリスが田舎娘に転落する話。

相手は、もはや、ただの植木ではない。
でありながら、無闇な擬人化に著者は酔っていたりしない。
植物に相対することで浮かび上がって来る自らのエゴを
勇敢に直視・・・と言いたいところだが、茶化してみせる。

これが、どうにも泣けて来る。たまらない。熱い。

好きだな。本音をストレートに語らないけれど。
フラフラと転がっているように見える球が、
ドーンと、胸の真ん中に命中する感じ・・・
ちょっと。中島らもさんを彷彿とさせる。

この本があまりに好き過ぎて。
延々と埒もないことを語り続けてしまいそうなので、
本書のしめくくりの言葉を最後に引用して終わりにします。

繰り返しながら、繰り返さぬこと。
植物はそんな見事な矛盾を生き抜いている。

(2012.10.26)
本書に貼った付箋の数・・・35枚。
植物好きじゃなくても、充分過ぎるくらい読み甲斐があると思う。
でも。都会生活者に特に実感が強く湧くという部分もあるかも。
「長年都会に行きてると、くだらないことに感動できる」と、
著者が自虐的に語る件に、いたく共感出来てしまうのです。

園芸家12カ月 (中公文庫)
カレル チャペック Karel Capek
412202563X

いとうさんがこの本を書くきっかけとなった作品。
私も大好きな本です。哀しくもおかしい園芸日記の傑作。
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  • 2012年10月29日 (月)

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