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清陰星雨   中井久夫

4622048191

みすず書房
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気になる箇所に挟んだ付箋がなんと64枚・・・。
この本、買います。(古本屋で見つけたら)

私、一読して著者のファンになってしまいました。
精神科医として「巨人」とも呼ばれる方だそうですが。
何しろ、穏やかで深い「知」を感じさせる人で。
文章がとても美しいのです。

どういう文章を美しく感じるのかということは。
時々考えてはみるのですが・・・

まずは文面が穏やかで。
ごく普通の言葉で綴られているものが多いようです。

削ぎ落したような迫力のある名文というよりは、
もう少し柔らかい、何気ない表情をしていて、
その中にハッとするような表情が時おり見える、
そんな感じの文章が好きです。

「神戸新聞」に掲載された随筆をまとめた本書は、
なかなか扱っている話題は重たいものが多いのですが。
著者は常に静かに、一見ごくあっさりと見えるほど、
極めて穏やかな語り口で綴っています。

なにかとても。響いてくるのですよね。
ああいいなぁ。こういう文章が書けたらなぁと思います。

「学園の私語に思う」という随筆から引用してみますね。
(全文ではないので・・・ごめんなさい)

 私は実験をしてみた。マイクをやめた。少しいい。次に教壇から降りてみた。私語があっても、音響の集中点にいないと、あの霧が押し寄せてくる感じはなくなる。
(中略)スライドは絶対に必要な時だけ使うようにした。あれはノートがとれない。それに既成のものを販売している感じがある。なるべく黒板である。黒板は只今動いている思考を目に見える形であらわしてゆく。映画のように流すこともできれば、複雑な関係をあらわすこともできる。いちばん古くていちばん新しいのではないか。

 学生の席の間に立っているといろんなことが見えてくる。三人掛けの席では真ん中の人がたいへんである。両方の人の動きにかき乱されて脳の余力が減るはずである。

うん。何度読み返しても、気持ちが良い。
では、自己満足というか調子にのって他にも幾つか。

すべての辞典が上下逆さまにしてあった。なるほど、逆さま本の上端に手をかけると本は一回転してすっと手もとに収まる。これがプロかと感心した。さっそく真似をしてみたが部屋があまりにも落ち着かなくなって間もなくもとに戻した。

鯨と馬は私には高貴すぎて人間が食膳に上せるのはおこがましいという気になっている。

私はかつて、なぜ人を殺してはいけないかというアンケートに「それは一つの宇宙を壊すことだから」と答えたが、被害者の宇宙は消滅するけれども、加害者の宇宙は消滅よりももっと耐えがたい状態になる。

 高名な詩人にはなぜか、どうしてこの人がという駄作が必ずといってよいほど混じるのに、「この一冊」に賭けておられる方の詩集にはそれがない。それから装丁に品がある。だから、本棚のその部分は美しく、すがすがしい。

 そのころ、買い物は主に大阪だった。阪急百貨店の八階の食堂から南を見渡せばことごとく重厚な瓦屋根に白い壁であって、向こうに梅田新道の堂ビルがみえた。大阪ほど、戦後に街の人相が変わった街はない。川筋に柳が影を落とし、赤煉瓦のビルが土蔵作りの倉庫群に混じる風景が私の大阪だ。(「移り住んだ懐かしい町々」)

あと、とある女流詩人について語った一節。
そのリズム、音調は私の内的リズムとぴったり一つになって響く。偶然の一致である。そういう人とはお会いしないほうがいいのであろう。

あれれ。こうも断片ばかりだと、伝わらないでしょうか?
特別なことを言おうとしていない感じが好きなのです。

(2014.8.5)
いじめや、震災について語られている部分には。
著者の洞察力の深さ、知性の鋭さを感じます。
それでも、やはりそれらを包む優しさに癒されるのです。
人間の闇を人一倍、見続けて来た人だと思うのに。
この人は人間に常に光を見ているのだと感じます。
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プロフィール

Author:彩月氷香

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読書感想がメインですが
時々、写真や雑記も。

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  • 清陰星雨   中井久夫
  • 2014年11月15日 (土)

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