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『昼が夜に負うもの』ヤスミナ・カドラ

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ハヤカワepiブック・プラネット10
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貧困、別れ、出会い、友情、恋、差別、裏切り、病、すれ違い、
戦争、死、成長、再会・・・・と、あらゆる要素が詰まった物語。

読み終えて、言葉を失う。

魂が、どこか遠くへさらわれたかのように、
現実と夢のあいだの広大な空白を漂うのを、
どこか別のところで眺めている私がいるような、
心地よい非現実が身を包んだ。

その、心が浮き上がり、ゆらめくような余韻は、
まるで壮大で、しかも緻密な映画を観た後にも似て、
色彩豊かで鮮明な、切れ切れの残像に彩られている。

なんて、見事な。
原語で読んでいない私に語る資格があるのか一抹の不安を感じつつ、
気がつくと、ヤスミナ・カドラの文章の比類ない美しさを、
どう表現したらいいのか、頭を悩ませていた。

しばらく、頁をめくり返しながら言葉を探したが、見つからない。
言えることは、ここには私の理想とする文章のスタイルが、
奇跡のように実現されている、ということ。

華やかな形容詞も、それどころか目につくような特別な表現も、
思わず感嘆するような比喩も、ない。
平易な言葉で、しかし、一語の選び間違いもないと思わせる文章が
淡々と、紡がれていく。

畳みかけるように短い文節が途切れず長く続くのに、
全く、息苦しさがない。
そこには、何とも言えないリズムがある。

単調なようで、自在な・・・ああそうか、バッハのピアノ曲に似ている。
整然として、でも一音一音がきらめいて天から降ってくるような、
神に捧げる、荘厳な音楽。
きらびやかなのに、つつましい。

著者の作品、あまり、多く翻訳されていないのが残念。
フランス語が読めたらいいな、今からでも勉強しようかな、と
無理に決まってることをふと考えてしまうくらい、
この人の文章は、私を魅了する・・・。

(2010.6.9)

関連記事

大変興味を覚えました。
「平易な言葉で、しかし、一語の選び間違いもないと思わせる文章が
淡々と、紡がれていく」なんて。
翻訳されていて、そんな風に魅了される文に出会えたなんて軌跡のようです。
それをまた見事に伝えてくださった彩月氷香さんに感謝です。
私の読みたい本リストに入れておきます。
2010.06.13 20:09 | URL | キヨハラ #/.OuxNPQ [edit]
素敵なコメント、ありがとうございます。
熱く語りすぎて、独りよがりだったかしら、
と心配していた記事だったので、嬉しいです。

ただ、ヤスミナ・カドラを初めてお読みになるのでしたら、
「テロル」という作品の方が読みやすいかもしれません。
物語に緊迫感があって、文章の美しさもストレートに伝わってくる気がします。
その分、主題が重いので、そうですね、好みによるでしょうか。

それぞれの小説が扱っている時間の長さが違うのですよね。
とっても雑な例えになってしまいますが、
「昼が夜に負うもの」の方が大河ドラマ、「テロル」はサスペンス、
といえば何となく、おわかりいただけるでしょうか?

「ヤスミナ・カドラ」のカテゴリに、「テロル」の記事もあるので、
よろしければ参考になさってくださいね。
2010.06.14 09:53 | URL | 彩月氷香 #- [edit]
彩月さ~ん、やっと来られました~^^

なんてくだけたご挨拶はこの本には似つかわしくないですね。
先日の「昔ご紹介くださった本の感想をコメントさせていただきに参ります」というのは。
この本でした。

読み終えてから少し時間がたつのですが
今も、読了後の「この一冊に出逢えた!」という幸せな気持が蘇ります。

「単調なようで、自在な・・・ああそうか、バッハのピアノ曲に似ている。
整然として、でも一音一音がきらめいて天から降ってくるような、
神に捧げる、荘厳な音楽。
きらびやかなのに、つつましい。」

まさに。彩月さんの文章が見事に表現してくださっているので
これ以上、私などには何もつけ加えることもありません。
読みながら、天上から降り注ぐきらきらした光を絶えず感じるような。
暗闇も混乱も血生臭さもたしかにそこにあるのに
この美しさはいったい何でしょう……。

終盤、主人公が辿り着いた場所。
長い時間、苦しみと共に渇望してやまなかったひとつのこたえに出逢えた瞬間。
はからずも熱いものがこみあげました。
私も「もしもフランス語ができたなら!」と本気で思いましたよ^^

「テロル」は先に読んでいましたが、その順番が正解だったような気もします。
あちらはまた違った印象をもちましたが
文体の見事さ、言葉の美しさ、この作家の類い稀な資質に目を瞠りました。
翻訳も見事でしたね。

ヤスミナ・カドラ。もっと読みたいです。
ご紹介くださってほんとうにありがとう。
2012.07.06 12:32 | URL | ハル #jjURaDtE [edit]
わぁ~お待ちしておりました(*^_^*)

こうして読書ブログをやっていながら矛盾するようですが。
私はあまり人に本を勧めるということが、実はありません。
「何が面白い?」「いい本教えて」と言われると困ってしまいます。

価値観や美意識や面白さの尺度も人それぞれだと思いますし・・・
実際、勧めた本を気に入ってもらえないこともあります。
それも当然、と覚悟はしていても自分の好きな本が不評だと淋しくて。

自分がすごくいい!と思った本は読んでもらえると嬉しいですが。
私が勧めたから・・・というのでなくて。自発的に読んで欲しいなと。
我が感想文ごときは、ちょっと意識にひっかかってくれたら良くて。
ふとした折に知らず、読むきっかけの一助になるくらいでいいな、と。

本って、その人その人、それぞれに読むべき時がある気がするんです。
本当に良い本は時機を見て読者のもとを訪れてくれるような・・・

でも。この本はハルさまに読んでもらいたい!と思いました。
まだ、お人柄や暮らしぶりなどを存じ上げない頃だったのですが。
今、思い返しても、その時の気持ちが不思議です^^

「暗闇も混乱も血生臭さもたしかにそこにあるのに
この美しさはいったい何でしょう……。 」

ほんとうに。この美しさは稀有なものですね。
醜悪なものの中に美を描くということは珍しくなくても、
いかなる時も絶えない「光」を感じさせてくれる作品には、
滅多には出会えない気がします。

この本をハルさまに読んでもらえたことは。
私にとって、とてもとても嬉しいことです。
こちらこそ、ありがとうございます。

邦訳されているのはあと一冊だけなんですね。
『カブールの燕たち』・・・手元に置いてあるのですが。
もったいなくて、まだ読めてません。ふふ。
2012.07.07 19:39 | URL | 彩月氷香 #- [edit]


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私は不幸だった。本書を読んだ時。しかし主人公の父親に比べたら、「不幸」だと標榜するのさえ、憚られるだろう。最初の100ページほどを読ん...
2010.09.16 21:51 読みました

プロフィール

Author:彩月氷香

とにかく本が好き
読書感想がメインですが
時々、写真や雑記も。

*初めましてのご挨拶
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  • 2010年06月12日 (土)

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