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聖母の贈り物   ウィリアム・トレヴァー

Posted by 彩月氷香 on 15.2015 ウィリアム・トレヴァー   0 comments   0 trackback
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ミセス・モールビーは死についてあれこれ考えてみた後で、たぶん、死が訪れた後には、眠っているときと同じような夢を見ることになるんじゃないかしら、と思い至った。天国と地獄はそういう愉快な夢劇場にかかっている映画にすぎないのでしょう。あるいは、目覚めて開放されることが決してない悪夢という映画。ミセス・モールビーの見るところでは、罰やごほうびを分配しているのは愛に満ちた万能の神様ではなくて、結局最後まで生き残る人間の良心であった。

やがてわたしはアイルランドに帰ってきて、今シャーロットがしようとしているみたいに夫を迎えるだろう。いや、もしかすると結婚はしないで、弟の屋敷にずっと暮らすことで満足するかもしれない。アデレイドと一緒にね。子どもが生まれるかもしれない。でも、もしかすると独り身のままで、この修道院遺跡のあたりを歩きながら、大昔のことや湖で釣をする修道士のことなんかを詩に書いているかもしれないわ。

「世の中には後始末をするのに時間がかかるひとだっているのよ。そういうふうにできているんだからしかたがないの」

ひとりぼっちの人間にとっては、つらつら考えることが友達みたいなものだ。

以上、心に残った文章の抜粋。
誠実で穏やかな淋しさ・・・とでも言うのでしょうか。
静かにそっと、励まされる感じがします。

訳者あとがきにこんな一節もありました。

著者が学校教師のかたわら独学の彫刻家として開業して、小さな村で暮らしていた頃のことを「すこし『日陰者ジュード』みたいでした」と語っていた。

「日陰者ジュード」(トマス・ハーディ)は私の大好きな作品!

あと。訳者さんの言葉をズルして引用しますと。

トレヴァーは、カトリック的心性にひそみ入りやすい欺瞞を見逃さないと同時に、神秘的なものを神秘のままに受け止める無垢な精神のありように深い共感を抱いている。

こういうところが、トレヴァーの魅力なのだなと納得。

そして、以下、読後の私のつぶやき。

ウィリアム・トレヴァー『聖母の贈り物』をぽつりぽつり読んでいる。数年前に『アイルランド・ストーリーズ』を読んだ時も感じたことだけれど。彼の作品は何とも不思議な魅力に満ちている。重苦しく、晴れやかさというものとはまるで無縁。静謐というにはどっしりとして。曇り空の下の草原の美しさ。

時々あまりにも心に突き刺さり。思わず涙ぐみながら本を閉じた。風化させることの出来ないものを抱いて生き続ける人間へのひっそりした愛情を感じる。厳しいほど率直に、美化されることなく描かれる人間の弱さの数々ではあるけれども。それを許すでもなく咎めるでもない視線に少しだけ、心が救われる。

上記の感慨を洩らしたのは、
「マティルダのイングランド」という物語を読んだ時のことです。

あ。いいそびれていましたが。本書は短編集。
この人の短篇の出来の素晴らしさには、ため息が出ます。

(2015.4.20)
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  • 2015年07月15日 (水)

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