Loading…
 

オジいサン  京極夏彦

2015.08.22 未分類   comments 0
4122060788
中公文庫
Amazon

まあ、今の徳一にとって、大事なことなどただのひとつもないのだけれど。
些細なことの積み重ねこそが徳一の人生そのものである。自が人生を軽く扱わないためには、些細なことこそを大切にせねばならぬだろう。ならば、忘れてしまっていいことなど徳一にはただのひとつもないことになる。

何をするにせよ、徳一はどうにも勿体をつける癖がある。何ごともサクサクと簡単に済ませてしまうことに抵抗があるのだと思う。

 いいや、集中している訳ではない。
 没頭しているだけだ。没頭とも違うか。これは忘我だ。まるで脳髄を使用していない。目から入った情報が頭まで行かずに手先に通じている。反射のようなものだ。思考経路をバイパスして視神経が腕の筋肉に直接接続されているかのようだ。
 頭の方は、いまだどうでもいい映像や音声を薄朦朧と浮かべたり流したりしているだけである。

 若いうちに思う程、人は老成も達観も出来ない。しかし若いうちに思うより、肉体はずっと衰弱してしまうのである。
 この溝に気づき、早め早めの老人構えを施すことが老人ライフの基本だと思う。若ぶったりしてはいけない。気弱になってもいけない。あるがままに———が基本だ。衰えた肉体と平仄を合わせるように心も老けさせる。そこんところが肝心だ。

 急いだり、同時に幾つかのことをやったり、端折ったりして時間を節約するのは間違っている。時間に対して己を激しくしたり折り畳んだり震わせたりしているだけだ。鯔のつまり自分を消耗させるだけである。そんな代償を払ったところで、現実の時間が伸びる訳ではない。効率効率と言うけれど、所詮個人が磨り減っているだけのことである。

 そういううっかりがないように心がけるのが正しい暮らし方だろう。それでも人間は見落としだの勘違いだのがあるから、うっかり失敗してしまうことがある。うっかり失敗してしまった時には、その失敗を糧として、もうそういうことのないように心がける———それが本来の姿ではないのか。人はそうやって学ぶのだ。不便が知恵を生むのである。


引用ばかりでスミマセン。
この本、すごく好きです。

独身のオジいサンの一週間を淡々と描いているのですが。
なんでしょ、もう〜。すごく読んでいて励まされました。

私も、いつか、こんなオバあサンになる予定です(笑)

何をするでもなく日々暮らして。
独りでも淋しいでもなく。
優雅でもないけれど、貧しくもなく。
趣味や社会活動に明け暮れたりなんかもせず。

新聞を丁寧に読んで。
スーパーに買い物に行って。
その途中に出会った出来事をつらつら思い返し・・・

普通過ぎるくらい普通の。
でも、なかなかないくらいに誠実な。

虚しくてもいいはずなのに、妙に楽しげな。
極めて地味だけど、退屈とは無縁な。

(2015.5.31)
京極夏彦と云えば、「怪奇ミステリー」のイメージ。
あれれ? こんな作品も書くんだなぁ。
そもそも母が図書館で借りた本だったのですけれど。
母→私→父、と。一家で回し読みしました。

関連記事


  • 管理者にだけ表示を許可する

trackbackURL:http://raffiner.blog70.fc2.com/tb.php/2538-7a49e8a4

プロフィール

Author:彩月氷香

とにかく本が好き
読書感想がメインですが
時々、写真や雑記も。

*初めましてのご挨拶
*ブログタイトルの由来

<別館のご案内>
Instagram
99%、花の写真です。

moleskine絵日記
ちいさな絵日記。

表示中の記事

  • オジいサン  京極夏彦
  • 2015年08月22日 (土)

カテゴリ

最新コメント

データ取得中...

月別アーカイブ

***