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俺、リフレ  ヒキタ クニオ

Posted by 彩月氷香 on 02.2016 未分類   0 comments   0 trackback
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嫌い合ってはいない。俺はそう感じる。しかし、いつものように意見がぶつかり喧嘩をして、ままならない思いだけを残している。馬鹿らしい、という一言では片付けられない。人間は馬鹿らしいことが身体に染み付いている。

 口喧嘩は、理論派が有利だとは限らない。俺が見ている分には、口喧嘩は、タイミングだ。パンと言われたらすかさずパンと返す瞬発力が物を言う。

見なくてもいいものに近付き、接すると自分自身が傷付くのがわかっているのに、そこに擦り寄ってしまう。そんな癖のようなものが人間にはあると思う。それは、好奇心という言葉に置き換えられるものなんだ。人間の好奇心によって俺たち機械は進化した。人間は失敗することで傷つくのを恐れる。しかし、それを乗り越えるため好奇心というものがあるのではないだろうか。

 伊作さんは、自分自身を進化させようとして好奇心を発揮していると言える。飛び込んでしまうと、傷付くに決まっている沼のような所に対してもだ。水面の上からは、決して見ることの出来ない沼の底を見てみたい、そう思っているんだ。

 負けず嫌いは才能の一部である。

 人間は歳を取ると鈍くなる。元来与えられた動物としての感覚を、成長過程に捨てて行く。それが人間としての成長なのだろう。様々なものを捨てないと、人間の社会では生きていけない。

 ヴァイオリンには非情な部分もある。才能のない人間に対する冷酷さはすごい。

 人間のすごいところは飽きないように生きているということだ。飽きて病気にならないようにいろいろなことを考え、実行する。趣味というものを考え出した人間は、長く生きているために出来上がった生命体ということになる。

 「才能の音がないんだ、ぼくには。そのことがぼくにはわかるんだ」

 「練習するのはテクニックなんだ。神童と言われる子供は、テクニックはなくても才能の音がある」

 真の平等なんてあり得ない。神様の歴史の中で、そんなことがあったためしはない。いつも不平等でいつも残酷だ。努力すれば願いが叶うような世の中を、神様がもし作っていたとしたら、人間は神様のことなんてまったく考えはしないし、心の中に思い浮かべたりすることはないんじゃないかな。
 それくらい、残酷で気まぐれで不可解なんだ。でも、俺だけが、この家の中で、神様の存在を信じている。

 大きなボールいっぱいにひじきを水で戻す。二時間ぐらいかな。水を切り中華鍋に入れる。これは油で炒めるのではない。そこに、業務用の削り節(厚切り鰹節、サバ節など)を袋に入れたものと昆布(切り落としの廉価品)でとった出汁にひじきを浸す。そして梅干しを数個と黒酢、味醂、醤油を三・二・二の割合で注ぎ、煮詰める。甘過ぎず油っぽくないひじきの煮付けだ。これを伊作さんは作り置きして、パスタに流用した。ペペロンチーノを作る要領で大蒜と鷹の爪をじっくりとオリーブオイルで香りが出るように炒め、そこに梅干しのひじきを入れ強火で炒め、固めに湯で上げたパスタを投入する。後は塩と黒胡椒で調整する簡単なものだ。


たくさん、書き抜きましたが。
最後の一文(ひじきパスタの作り方)が本書と出会うきっかけ。
NHK BSプレミアムで放送されていたドラマ「本棚食堂」で、
この部分が紹介されたんです。

知らない人の為に補足しますと。
「本棚食堂」は主人公の売れっ子少女漫画家(男2人組)が、
締切に追われると書庫に駆け込んで現実逃避をし、
小説・漫画・エッセイなどに登場する料理を再現するという内容。

で。その本書は。
主人公が「神様を信じている、冷蔵庫」。

彼はエミリ・ディキンソンの詩でプログラムをされ、
彼はヴァイオリンに嫉妬し、
彼はヴァイオリンに聞き惚れ、
彼は持ち主たちの幸福を願う。

ほんとうに。愛すべき冷蔵庫なのです。

以下。私が読後につぶやいていた言葉。

ヒキタクニオ「俺、リフレ」読了。冷蔵庫が主人公? 安易な擬人化だなぁ…と。読む前は思っていた。でも。冷蔵庫の目線から見る壊れかけた疑似家族の姿に。妙に心を奪われた。神様を信じている冷蔵庫というのは何だか微笑ましいけれど。そもそも、彼の語りは「神の視点」に極めて近いのだった。

スランプ気味の小説家と、才能のなさを自覚しているイラストレーターである妻と、天才一歩手前で、でも自分の才能が世界レベルでないと自覚してしまった少年と。その三人にとってだけの神様。

壊れかけた人間の。その壊れ具合というのか。壊れ方の傾向というのか。それがとても親近感が持てて。どこか愛らしい、丸みのある鋭さを感じる描写が好きだと思う。物語の途中から、ずっと背景にバッハのシャコンヌが聞えて。その音色の変化に、冷蔵庫の「俺」と一緒に耳を傾けているように感じていた。

ヒキタクニオさんて、初めましての作家さんだった。たぶん、本棚食堂で紹介されてなかったら読んでいなかった。ペンネームも、作品のタイトルも、私が敬遠するタイプだ。あらすじや紹介から推察する作風も。読んだのだって、おいしい料理が登場するのを期待してただけ(その期待は裏切られなかった)。

何となくね、難癖つけたくなる部分はあるような気もするけれど。私は素直にただ、面白く読んだ。人物の描写の感じは特に凄くいいな、と思った。人と人の距離感がリアルというのか。小説では現実より濃密だったり、希薄過ぎたりするのだけれど。ちょうど、自分の感覚に近いとでも言うのか。

(2015.8.8)
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