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海の本屋のはなし  平野 義昌

Posted by 彩月氷香 on 23.2016 未分類   0 comments   0 trackback
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苦楽堂
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「海文堂書店の記憶と記録」と記憶にあります。
元従業員が語る、閉店してしまった老舗本屋さんの実話。

海文堂の中央カウンターの机には、
創始者の岡田一雄の言葉が貼られていたそうです。
 
われわれはよい書籍を出版しよう。
でき得れば利益を得たいがやむをえなければ損をしてもよい。
しかし、常によい書籍の発行を念願としよう。
出版の文化的使命は重い。


良い言葉ですね・・・
「暮しは低く思いは高く」というワーズワースの詩の一節を
この創始者の方は、よく口にしていたと言います。

決してケチではなく、自分の子どもたちにも、
身につけるもの、鑑賞するものは本物・一流を第一としたのだそう。

第5章「仲間たち」がすごく、いい。
普通の(と言っては失礼かもしれない)書店員の姿がある。
本屋さんの声が聞える。
書店員とお客様の、美談ではない、日常の温かみがある。

「閉店の時、私、お客さんたちに『困るわ、困るわ』って言われたんです。『大書店はちゃんと揃えてあるから大丈夫ですよ』って言ったんですけれど、自分が大きな本屋に行ったときに、探せなかったんですよ。自分が欲しい本が。売れる本は目につくんです。けれど、私たちが届けたいと思う本は、すぐ目につくとこになかったりするわけです。『これではお母さんたちは選べないな』と」
「『これは子どもたちに』っていう本の中からお母さんたちに選んでもらえるようにするのは手間がかかるんですけれど、海文堂書店では、そういう時間もなんとかもらえてました。もう、今どこも人件費削減で、そういうことを担当者がしたくてもできない状況じゃないですか。お客さんと話すってことを大切にしていたのは、やっぱり海文堂のもともとの体質だったと思います。私もそういう先輩たちを見てきたから。それが海文堂だったんじゃないですかね」

これは、児童書担当の田中智美さんの言葉。

著者が語る「閉店バブル」に私もささやかながら参加しました。
ええ。閉店すると知ってからどっとお客様が押し寄せたんです。
そうなる前に、もっと本を買いに行けば良かったのにね・・・

第6章「閉店まで」は日記形式になっていますが。
なんかもう、胸が詰まります・・・
自身の日記と照らし合わせてみましたら。
私は閉店の二日前の9月28日に訪れていました(2013年)。

余談ですが。
私が買ったのは「夕暮れの緑の光」と「レンブラントの帽子」。

以下、胸に刺さった箇所を引用します。

「海文堂書店の児童書は、私が作った棚というよりも、初めに基本がありましたので。私はありがたく、恵まれていました。根本は『子どもにとってどうかしらね』でした。子どもにとっての本選び。そこが基準でした。子どもって、しっかり本物見る力を持っていますから、せっかく1冊子どもに手渡すならば、ちゃんと美しいものを見せたい。見せたいっていうか、見てほしいなっていうか。そういう思いですかね。海文堂書店は総合書店ではありましたけれど『どこの書店でも売れてますよ』的な、どこでも積んであるような本を置いてなかったりするので。」

いい本がパッと目につくところにはない(地味だから)。選んで渡す大人の手が絶対必要なんです。それが、ものすごく難しくなってる。

 後に聞いた話です。取次会社と銀行から、返品不能品(不良在庫)が少な過ぎると疑問をもたれたそうです。返品時に各担当者がきちんと「了解」を取っていたために、逆送品は少ないものでした。返品不能になった本はほとんどが廃業出版社のものでした。海文堂スタッフたちは、プロとしての始末を見事につけました。共に働いた仲間として彼らを誇りに思っています。

「理想の本屋とはどんなお店なのでしょう。広すぎず狭すぎず、ぐるりと一周すれば自分には関係ないと思っていたジャンルの新刊までたまたま目にしてしまい、そして時には運命の本と偶然めぐりあう。本とはそういう風に出会いたいよねという、支持してくださった方のイメージの中の本屋として海文堂はあったのかもしれず、それがあのような最後の熱狂を生んだのではないでしょうか」

「お客さんが海文堂書店を応援してくれ、閉店を惜しんでくれた理由は、100年になろうとする歴史の中で海文堂という本屋で働いてきた数知れない人たちが、ひたすら、そして淡々と、正直な商いをしてきたことに尽きるのではないでしょうか。たまたま最後の場面に立ち会った私たちが、歴代のスタッフに代わって惜別の拍手をいただけたのだと思います。皆さんが評価してくれたであろうことを思いつくままに挙げてみます。神戸という地域に根ざした姿勢。本屋を拠点としてさまざまな文化発信のありよう。偉ぶらず、本を求める人たちにできる限りオープンに扉を開けていたこと。本を媒介として極力お客さまと対話を重ねようと努めてきたこと。儲けにならないバカなことも多々敢行してきたこと。
 海文堂書店に対して見に余るお心を寄せて下さった方々が数知れずいらっしゃいます。そのお心に値する存在だったと胸を張って言えはしませんが、私たちもそれらの方々のことが大好きだったことは間違いないと思います」


閉店通告の、あまりにも、あまりな言葉、態度。
それを思い返しての、店員のこの言葉。
「あの「8・5閉店通告で皆やる気をなくしてサボればよかったのです。たくさん残っている有給を消化しても文句は言われません。就職活動をすればするべきだったのです。閉店が決まっているのに、最後まで仕入れ努力をし、声を張り上げてレジをし、自分たちの仕事に終止符を打ちました。」


この熱狂的な感じもあった閉店騒ぎは。
上手く美談にされた、という感想もありました。
出版の形態がかわりはじめたことを、
世間が意識し出したタイミングの閉店だったから。
あれだけ騒がれたのだ・・・と。

でも。実際のところ、どうだったにせよ。
続いて欲しい本屋さん、大好きな本屋さんでした。

しかし、本を買わなくなって久しい自分が、
いったい本屋について何を語れるだろうか・・・

あの時、お別れに行かなきゃ、と思ったのは。
本屋が次々と閉店に追い込まれていく現状に。
遠からず、自分も加担していると感じたからなのか。

切なくも、本と、本屋の役割と、
それが変わりゆく時代の流れのどうにもならなさが、
胸に押し寄せてくる著作でした。

本を愛して働く人々に今後も活躍の場がありますように。
そのような場を生み出せる世の中でありますように。

また、今とは異なる形であったとしても・・・

(2015.10.28)
高田郁さんも、海文堂のお馴染みさんだったのですって。
ちなみに海文堂は神戸の元町通り3丁目にあった本屋さんです。

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