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儚い光  アン・マイクルズ

Posted by 彩月氷香 on 29.2016 アン・マイクルズ   0 comments   0 trackback
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ハヤカワ・ノヴェルズ
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「こんな恐ろしい知らせを、どうしてこんな美しい字で書いてこられるのだろう」コスタスの筆跡は渓流をながれる水のように優美で繊細だった。

「自分を救うために書きなさい」と、アトスは言った。「そうすればいつか、救われたからこそ書けるものを、書くことができるはずだ」

 矛盾をふりすてるまさにその一瞬がある。そのときに選ぶ嘘を、人は生涯手ばなすことができない。わたしたちにとってもっとも大事な嘘は、しばしば真実よりも大事なのである。

 なにかをなくしても、それをなくしたという記憶さえのこっているなら、それは喪失ではない。記憶は、使い道をあたえられなければ死んでしまう。アトスならこうも言っただろうか。土地を失っても、その土地を記憶していれば、地図をつくることができる、と。

「とんでもない。死んだ人たちにときどき美しいものを持っていってあげるのは、正しいことだと思いますよ」


川本三郎氏の解説はこんな風に始まる。

 感動的、素晴らしい、といった賛辞を不用意に使うのがはばかられるような小説である。どこか森のなかに身をひそめている美しい動物を見に行くように、読者は、この小説に静かに、息をひそめて近づいていかなければならない。ようやくその姿を目にしても決して発見したなどといいたててはならない。


 痛ましい記憶。その記憶とともに生きる人々。しかし、川本氏の以下の言葉がこの小説を見事に言い表している。

「この小説は、闇を描いた小説ではなく、闇に刺繍をほどこした詩なのである」

作者が詩人であるというのが納得の、叙情性の高い文章。「冬の眠り」を読んですぐ、もっと読みたい!と思った作家。作品としては「冬の眠り」の方が好きかな。この作品はあまりにも題材が辛かったから。

「冬の眠り」の方が物語がシンプルで、文章の美しさを堪能できたような気がする。でも・・・やはり。本作も文章がいい。香り高い静けさ、という感じ。しんと冴えているけれど、研ぎ澄まされているというより、まろやかな感じ。きっと原文で読んだらもっと素敵なのだろうな。

(2016.4.19)
この人の書いたものなら全て読みたい!と思うくらいなのに。翻訳されているのは二作品のみ。で、もう読んじゃった・・・残念。詩集もぜひ翻訳してもらいたいです。
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  • 2016年08月29日 (月)

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