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屍衣の流行  マージェリー・アリンガム

Posted by 彩月氷香 on 23.2016 その他 翻訳ミステリ   0 comments   0 trackback
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世界探偵小説全集 (40)
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 六十歳にして、彼女は小柄で色黒の不器量な女性となっていたが、黒髪は絹のようで、胸を張り、見にまとうものすべてを優雅に着こなす才能を備えていた。キャンピオン氏が昼食を終えて入ってきた時、彼女は書き物机に向かって、風変わりなペンで大きな判読できない文字を書いていたが、目を細めて心からの歓迎を示して挨拶した。

 レックスはとても目立っていた。怒りは忘れていたが、常に適度な人当たりの良さで抑制された、あふれんばかりのはにかみを時折覗かせては、いまだに哀感を漂わせていた。

 彼は上品さを保ちながら別れるという気詰まりなことを一同の魅力的な経験に変え、好感を与えた上に、この会見では自分の要望を通しただけなのに、どういうわけか話し合いができて良かったという印象を与えて立ち去った。

引用したのは、いずれも物語(本書はミステリです)の進行上、重要とはいえない通りすがりの人物の描写。しかし、思わず書き留めておきたくなるような、魅力的な人物像ではありませんか?

アリンガムの小説の楽しさは何よりもここココ。悪女系の女優のジョージアという人が登場しますが、緻密に描かれた彼女の魅力ときたら! 私がこのタイプの女性(演技的な日常を送るザ・女)に感服するなんて、前代未聞。人物の造型が繊細すぎて、物語の進行を妨げている向きもありますが、ひたすら浸って酔いしれてしまいます。

前作では、主人公のキャンピオンが地味過ぎると苦言を述べましたが、本作ではそれなりに(!)個性を発揮しています。何より、彼の婚約者のアマンダが私は好き。彼の妹も好きにはなれませんが、目を惹く人物です。

作者がイギリスの貴族階級であるからこそ書けた人物ですね、いずれも。アガサ・クリスティもアリンガムの才能を認めていたというのは嘘ではないのでしょう。

ただ、推理小説としてイマイチ。頑張ってはるんですけどもね(なぜ急に大阪弁?)、すきっと読者を納得させたり唸らせたりする力量はないねん。だから日本で評価が低いんやろなぁ。

英国らしさが染み渡っている作風がなんと言っても最大の魅力で。これで作品の瑕疵が帳消しになるくらい。まぁ正直言えばあとちょっと物語作りの方の才能があれば・・・と望みたくなりますが。

熱烈なアングロファイル(英国ファン)のM・グライムズがクリスティーと並んで愛読していたというのは納得。ちなみに、M・グライムズはアメリカ人のミステリ作家ですが、英国を舞台としたシリーズもののミステリを執筆しています。なぜ絶版なの!?と怒り狂うくらいに私が好きな作家です。

あ。怒り狂わんでも良かった。復刻してるやん!
「禍いの荷を負う男」亭の殺人 (文春文庫 )「禍いの荷を負う男」亭の殺人 (文春文庫 )
マーサ・グライムズ
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何が言いたいのかわからなくなって来ましたが、要は英国ファンの人にはお勧めということ。私も英国風味(もはや人生に不可欠)が不足した時の補給用リストに著者を加えておくことにします。

(2016.7.23)
本、物、映画、絵画・・・と洋モノ好きです。国籍は問わないはずですが、高率でイギリス物が好みにフィットします。イギリスというよりも「英国」と呼びたくなるような。最近はその好みに逆らわないことにしたおかげで、部屋中にイギリス製品が増殖しています。
で。余談の余談ですが、英国らしさには少なからず「しつこさ」が重要で。あ、綺麗な言葉に直せば「重厚」とも言えますけれど。私はどうやら若干の「くどさ」「しつこさ」を好むようです。

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  • 2016年09月23日 (金)

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