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心のおもむくままに   スザンナ・タマーロ

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草思社
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家を出た孫娘へ、老女が手紙を書く。
長い長いその手紙は、まるで読まれるあての無い日記のよう。

心の奥深くに仕舞い込まれた過去の秘密へと迫りつつ、
「今」の何気ない喜びと苦しみも織り交ぜながら、
何日も何日もかけて、ゆっくりと紡がれていく。

老女(わたし)と孫娘の間には、今は亡き娘の幻影が。
老女の母の影も、チラホラと見える。
ある意味、これは女たちの物語。
否、幾とおりかの母娘の物語。

理解しあえない不幸は、母のせいでも娘のせいでもなく、
世代の違いという単純なものでもなく。

女たちは一様に、「自分らしく」生きたいと願い、
「母」をそれを妨げる「敵」と感じて反発する。
その生き方を、考え方を、自分を育てたやり方を、非難する。

「自分」に捉われ過ぎて周囲が見えず、
その結果、そんなにも固執している「自分」さえ見失って、
そのことに半ばは気付きながらも容認する勇気が持てず、
虚無のなかに原因を追い求めて、傷を広げていく・・・。

特別なことではなく、きっと誰の身の上にも起こること。
しかし、そこから抜け出すことが出来ぬままに自滅した、
老女の娘であり、孫娘の母であるイラリアは。
憐れむには愚かすぎて、でも他人事に思えなくて。

母親がこれほどの重荷を背負っている横で、
父親は何をしているのだ?
その不在が母娘の関係を必要以上に濃密にしているのではないか。
いやいや、そういう、わかりやすい家族の話ではない。

「心の声に耳を澄まそう」なんて、
言い古され、擦り切れたテーマのように思うのに、
それが、真っ直ぐに心に響き、安らぎすら運んできてくれるのは、
細やかなのに伸びやかで、深みに踏み込んでくるのに穏やかな、
スザンナ・タマーロの類い稀なる文章の力だろう。

手紙の最後の、孫娘への語りかけの一文に、
その万感の思いが込められている。

(2010.7.19)
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スザンナ・タマーロ。

この名前には胸がぎゅっとなる感覚があります。
懐かしい作家です。
偶然手にとったこの1冊に心揺さぶられ、ほかの著書も求めました。

よい本って、何年たっても、初めてそれを読んだ時の
自分の心の状態までも一気に思い出させますね。

再読したくなりました。
2010.07.22 16:24 | URL | はーちゃん #JyN/eAqk [edit]
おっしゃられるとおりです。良い本ってそういうものですよね。
「気持ち」、ではなく「心の状態」という表現、とてもしっくり来ます。
「胸がぎゅっと」というのもタマ―ロの作品の印象を端的に表していますね。

コメントを頂くたびに、目利きな読書家さんだなぁと感心しています。
私が心底好きな本ばかりなので、なんだか、嬉しくて。

ヤスミナ・カドラ、ご存知ですか?
はーちゃん様に、ぜひ読んで頂きたいなぁと思う作家さんです。
ブログ内に感想載せているので、よろしければご覧ください。
2010.07.23 00:14 | URL | 彩月氷香 #- [edit]
おじゃまします。2年8ヶ月間ベッドの上で「いくたびか 雪の深さを たずねけり」「首上げて 折折見るや 庭の萩」病臥10年の正岡子規と同病に苦悩している。ベッドに「心のおもむくままに」の本が無雑作に置かれていた。
スザンナタマーロは初耳の作家である。いつものように「つん読」よろしく途中から読み始めた。偶然に開けたのは191ページだった。「カシの木の下にすわるときはあなたではなくカシであれ。森にいるときは森になれ。人と生きるときは共にあれ」が眼に惹きつけられた。此の本はこれがすべてであり集約それていると行っても過言ではない。彼女の本はすべて注文した。DVDもあれば場購入したい欲望に駆られた。失礼ともはばかれるが彼女に自分と同じ豊かで貧しい内閉性(自閉性)を見た。奔放なる性の欲動そして死の欲動、生の中に死が潜み、死の中に生が潜んでいる。私は是と似通った体験を多くしている。助けてあげられなかった。助けられなかった人たちの苦悩や絶望感が身にしみて身につまされている。全く見に覚えの無い人から「お前はこれで人の痛みが少しでも感じることができたか」といわれ唖然とした。怨みは識らずに買っている物なのであります。怖い物です。自分をも的に回していた私でした。
2011.12.10 01:48 | URL | 万華鏡 #.ePhZ9ZA [edit]
「豊かで貧しい内閉性(自閉性)」というのはいい得ているかもしれません。
怨みは識らずに買っている・・・それも私にも身に覚えのあることです。

外向きに生きるコツを年齢を重ねるうちに、どうやら身に付けましたが。
それも儚い鎧のようなものだな・・・と改めて思い知らされることも。

研ぎ澄まされた感性は、きっと。本人にも周囲にも。
何か「魔物」を引き寄せるのでしょうね。いえ。生み出すのでしょうか。

すっかり「鈍感」な人間になった私には、ちょっと懐かしく、
不謹慎にも羨ましくも思える、突き刺さるような苦悩です。
その閉鎖性の中に広がる、底の知れない透徹した豊かさも・・・

万華鏡さまにも、時には心の安らぐ時間がありますように。
2011.12.10 09:45 | URL | 彩月氷香 #b98C2Btc [edit]
おじゃま様です。彩月氷香様のブログを啓けた瞬間にナルシスのほのかな香りに抱かれるようです。パウロ・コエーリョの「アルケミスト/愛蔵版」を愛読しています。平尾香さんの挿画がとても素敵で飽きることがありません。事故で別れを余儀なくされた彼のひとから水仙の華をお見舞いにいただきました。あっという間に水仙(ナルシス)の優美な香りに部屋全体が包まれました。
ふるえる指で御礼の文をしたためました。字がゆがんで文章にならないジレンマに密かに別離を決意しました。(医者から精神病院行きか廃人以外に道はないと宣言されていたのです。)わたしは詩(死)をかきました。乱れた字で鉛筆でひたすら初めて字を書いた幼き頃のつたなさで綴りま9835した。
「水仙の華よりいずる香にも似て清楚の裡(うち)に秘めたる情念を君の微笑み 内(なか)に観ゆ」彼のひとの眼に映るわたしの悲嘆に暮れた顔がとても絶えられなかった。婚約指輪が悲しくゆるんで光っていた。その夜、婚約リングを外して詩手紙につつみ仲人さんに届けていただきました。これもまた人世です。彩月様にお会いできたことを心から感謝しています。ありがとう。
2011.12.11 08:18 | URL | 万華鏡 #.ePhZ9ZA [edit]
「アルケミスト」は読みたいと思いながら、読み忘れている(!)一冊。
思い出させて下さってありがとうございます。また、近々読みます。

水仙の気高さは私にはなく(笑)、もっとグニャグニャした人間ですが。
美しいイメージを抱いて頂いてありがとうございます。

ブログ拍手欄に頂いたコメントの数々、大変楽しく拝見しました。
過去記事を読んでもらえるのは、実は何より嬉しいことです。
現在の私、だけを見てもらうと、本人との齟齬が大き過ぎるので。

他人の過去に遡って興味を持つ人の方が少数でしょうけれど・・・
というか、それが普通だと思いますが。
過去記事を読んでみたいという気持ちを持って頂けるのは光栄、
と、勝手に思っております。

拍手コメントへの返事は、もし書けたら・・・ということでご容赦願います。
時間と気力に限界がありますので・・・申し訳ありません。

苦しい時を、別離を乗り越えることが出来ますように。
万華鏡様の美しいものを愛する心が支えになることを信じ、お祈りします。
2011.12.12 10:44 | URL | 彩月氷香 #b98C2Btc [edit]
「神秘と詩の思想家メヴラーナ トルコイスラームの心と愛」の訳著を無償提供してもらいました。訳者西本今日子様のご厚意に甘えて「クルアーン/コーラン」のようにいつも共にあります。私は無宗教者です。でも空也上人や一遍上人やルーミー(メヴラーナ)はすきです。
此の本の中ですきな個所が3つあります。1.「死者は二度と戻ることはない 肉体はやがて滅びるが魂は不滅である 肉体は死んで初めて、魂は永遠の生を得る」 2.「歓びはは常に嘆きの下に潜む」
3.「貴方は必ず愛と共にあれ しなぬよう 愛の裡に死して 愛の裡に生き続けよ」イスラム神秘主義は子女坂村真民先生の薦めによるところであります。「愛の旅人-ルーミーに魅せられて-」もとてもすてきでした。
ひまならお読みに成られてください。朝鮮の放浪乞食詩人金傘(キムサッカ)もくせかせあるが味深いものがあります。エミリー・ディキンソンも坂村真民先生に紹介を受けた詩人です。エミリー・ディキンスンさんの詩
「もし我心痛みたる一人だに救い得ば 我が生活は無駄ならず 一人の憂慮いを去り得なば一人の苦痛を癒し得なば弱りし鳥の一羽をば助けて其の巣に帰し得ば我が人生は無駄ならず」



2011.12.12 11:23 | URL | 万華鏡 #.ePhZ9ZA [edit]
ひまではないですが(笑) ぜひ読んでみたいと思います。
エミリー・ディキンソンは、私も好きです。
そういえば、当ブログで紹介するのを忘れてました・・・。

無宗教なのは同じくですが。
祖母がクリスチャンなうえに、親友が牧師の妻で。
もちろん(?)ガチガチのミッションスクール卒の私は。

知らず知らず、かなりキリスト教寄りな感性を持っている・・・
という可能性が大です。

そういう状況で、クリスチャンにならなかったのには。
かなり強固な意志と反発もあるのですが。
それはまた、長い話になりますので・・・

イスラム世界はどうも遠く感じてしまいますが。興味はあります。
あ。「ルバイヤート」はイスラムですよね?あれ、好きなんです。

放浪詩人、というのも。惹かれますね。
図書館に本があるといいんですけど・・・調べてみます。

2011.12.12 11:33 | URL | 彩月氷香 #b98C2Btc [edit]
彩月氷香様へ
これで最後にします。禅の教えに「知らざる最も親し」というのがございます。鬱病とはいえ、言い訳にならない無遠慮を働いてしまいました。ごめんなさい。汗牛充棟なる書に慣れ親しんでおられる姿勢に尊慕の念を抱きます。つい最近感動した書跡を紹介させて頂きます。読了済みならお許しを願います。藤原新也氏の「なにも願わない手を合わせる」「死ぬな生きろ」「メメント・モリ」「書行無常」「インド放浪」です。折原みとさんの「青いいのちの詩/世界でいちばん遠い島」も読んで小笠原をすっごく近くに感じられるようになりました。動けるようになったら小笠原で余生(骨を埋める)を過ごしたいと考えてしまった嵌りようです。沖縄は米軍自衛隊移管業務で2年10ヶ月駐在していました。猛毒のハブと反対運動に閉口しました。温暖なところは精神衛生には良いようです。「ルバイヤット」オマル・ハイヤーム=原著 片野文吉=訳 四行詩集を買いましたが酒と酌婦の話ばかりで意味が飲み込めませんでした。
西田今日子さんのブログの「ルーミー詩撰」と「精神的マスナヴィー」を開いてみて下さい。いらぬ事ばかり申しました。又いつの日かお元気で
2011.12.14 19:36 | URL | 万華鏡 #.ePhZ9ZA [edit]
温暖な所は精神衛生にいい、というのは本当にその通りだと思います。
一方で、寒さに鍛えられるのが精神でもあり・・・。
じっと耐えることも尊くも思えます。冬に咲く花の美しさが好きです。
ただ、現実は厳しい冷たさに挫けてしまう脆弱さですけれど。

ご縁があれば、ご紹介頂いた本を読むこともあると思います。
あれもこれもと欲張り過ぎ、今、読書が苦しくなりかけているので。

万華鏡さまにとって、読書は楽しみというよりも魂の探究、でしょうか。
うがった事を申し上げてごめんなさい。
でも、切迫した気持ちで読む時の、研ぎ澄まされた苦痛のなかの、
何だろうなぁ・・・深淵に見える小さな(でも強い)光、のようなもの・・・
ちょっと懐かしく思います。

無遠慮だなんて。ひとときでも、心の憩いになるようでしたら。
また、いつでも遊びにいらして下さい。
2011.12.15 09:57 | URL | 彩月氷香 #b98C2Btc [edit]


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  • 心のおもむくままに   スザンナ・タマーロ
  • 2010年07月22日 (木)

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