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試行錯誤に漂う  保坂和志

Posted by 彩月氷香 on 12.2017 保坂和志   0 comments   0 trackback
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みすず書房
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保坂さん、読者に喧嘩売ってます?

いや。まぁ。そう取る人もいるかも・・・な内容。
私自身は、かなり共感しました。
著者が考える「読む」「書く」の定義に勇気づけられます。

それにしても読みにくい読みやすさとでもいったリズムの彼の文章は、伝染性がありますね。ベケットを思い出させるというよりも、ああ、ベケットの作風ってこんな感じに活用できるんだなという発見に「やられた」感があるというか、妙に悔しさが生じます。

私・・・ベケットを泣きそうになりながら根性で読み切りましたから。しんどくて退屈でイライラして、でもやめられなくて、うわぁ何で私はこんなものを読まねばならぬのかと悩みながら読みましたから。だけど明らかにベケットの影響が見える保坂氏の文章は読んで楽しく、それはたぶん文体の魅力というよりは内容が私には近しく感じられるからではあるけれど、すっきり整理された言葉よりも書きながら考えて進んで行く手探りの質感が魅力でないわけでもなくて、つまるところ息継ぎの感覚が常に「遠い」から少し読み心地が息苦しいのも、ある種の思考を描くには効果的なのですよね。

手元に本がないんで、全然違うかもですけど。
ちょっとそれ風に書いてみました。
(ベケットファン、保坂ファン、ごめんなさい! 見逃して!)

さてさて。では私がブンブン首を縦振りしたところを幾つか。

文脈は乱れずに一貫させるためにあるのでなく、乱れようがどうしようが考えを前へ進ませるためにある。

誤読されるものは誤読される。意味じゃないところで激しい共振を起こさなければ文章なんて伝わらない。それを受け止める読者は少数だ。正しく書かれた文章はクリアで意味が間違われずに誰にでも伝わるというのは、社会の側が作り出した思い込みであり、誰にでも伝わる文章は誰の心も揺り動かさない。

私にとって小説は文学ではない。一番大ざっぱな言い方をするとそういうことだ。文学というのが、総体として意味を語る(創る)ものだとしたら、私が小説というときの小説は、行為とか手の動きとかにちかい。そのつど何かを考える、当然「そのつど」の意味はあるが、全体としてのまとまりのある意味を構成する必要はない。

困難を掻き分けて力を振り絞って書いた言葉は、困難を掻き分けて進んでいる人間に勇気を与えてくれる。

 書くとは自分の中に外からかすかに聞えてくる音ともいえない音、声ともいえない声、あるいは頭の中の遠くにある像ともいえない像、光の筋ともいえない光の筋を少しでも近づける、またはそれに近づくためだ、という書くがある。
 何のためにそんなものを読まなくてはならないのだ、と言う人がいる。しかし私はそういうものをこそ読みたい。

小説をたちまち解釈する人がいる。そういう人はけっこう多く、明晰だとか頭がいいとか思われているが、そんなことはない。小説が解釈されて、その解釈で足りるなら、小説はその言葉の連なりである必要はなく、解釈されたその言葉でいい。

読むとは読むのにかかった時間のあいだに、読者であった自分が進んだりどこかにズレたりすることで、その時間の響きが読んだ人に起こらなかったら読んだことにはならない。

最後に引用した文から判断するならば。
私はこの本を「読んだ」と胸を張って言えます。

しかし、その読書体験は現在進行形の要素が強過ぎて。
読んでいる最中は心と頭がフル回転して「生身」の自分に、
ビシバシと響いてくる熱気があったのですけれど。
読み終えたら、スコーンとその熱も思考も飛んで行き。

え。余韻がないんですけど。
急に、さっぱりと頭が空になったんですけど。
蓄積しないってことも読み味の流派の一つかもしれませんが。
いや。正直、なんか寂しいんですけど。

私って、素直過ぎる読者なんだわ・・・

しかし。読書に「ライブ感」があるのも良いですね。
ちなみに夢中になれる小説だからと言って「ライブ感」は無い。
主人公になり切る、というのは自分が「参加」してませんから。
ライブには「主人公」(歌手)がいますが、
観客も、その場(ライブ・コンサート)を創る要因なわけで。

「読む」という行為も「創作」なんです。
そう思えるような「読み物」に出会い続けていたい。

そんな格好いい台詞を吐いてみたくなる本でした。

(2017.3.7)
私が今、一番好きな文章は精神科医の中井久夫氏の書くものなのですが、奇しくも保坂氏も本書の中で何度か中井氏の著作に触れていました。中井氏の文章を「気高い」といい、中井氏の著作に「あまりにも激しく感動」と書いている。わかります、わかります。となると、保坂氏と私の好みが似ていると解釈して良いのだという推察が成り立ちまして。であれば、彼が褒めちぎっている作家たちの本は読むべきだということでしょうか。何やら歯ごたえのありそうな本が並んでいますが・・・。
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  • 2017年06月12日 (月)

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