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五番目のコード  D・M・ディヴァイン

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創元推理文庫
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あ。一瞬、わかったのに・・・犯人。

「この人が犯人じゃない? なんかそんな気がする」
・・・と、一度は思ったのに!!!

最終的には、すっかり騙されてしまいました。
あー。そうか。そうだよ、そうに決まってるのに!

こういうタイプのミステリー、すごくすごく好きです。

まず。主人公のキャラクターが秀逸。
グズグズしてるんだよねー。
才能があるけど、ダメ人間。
でも、クズじゃないの。

一度、裏切られて挫折して。それを引き摺っている。
そうでなくても、もともと気持ちに弱いところがある。
そんな自分と、長年闘ってもいる。
彼が、日々葛藤してる姿に激しく共感します。

自分の弱さを自覚している彼は、人生の落伍者に惹かれる。
否、つい関わってしまい、自分もズルズル落っこちる。

ジュレミーが新規まき直しを決心したのはこれが最初ではなかった。だから彼は落とし穴を知っていた。最初の勢いが力を失った後にくる反動、挫折を覚えるやずるずるもとの自己憐憫に戻りたくなる誘惑。

 彼はほとんど限界点に達していた。なじみの、鈍い鬱屈した怒りが彼を捉えていた。自分自身と、ジャック・レズリーと、ヘレンに対する怒り。人生そのものに対する怒り。闘うことになんの意味があるのか? さいころに仕掛けがしてあるんだから勝てるわけがない。

 浴槽に横たわり、罪の意識にわざと心を閉ざした。「九時まではやめておこう」こう自分に言い聞かせた。これは子供のころ彼が思いついた防衛手段だった。悪いことをしたら、その必要にせまられるまでは結果を思いあずらうな。期限を定めて、それまではくつろげ。罪のあがないをする前に最大限の楽しみを引き出せ。
 キャスリーンとの夜が罪深かったというわけではない。それでもそれは、敗北と、希望の放棄を象徴するものだった。

イヤってほど、こういう感覚はわかる。馴染みがある。
ちょくちょく、否、ほぼ毎日。「立ち直ろう」として。
でも、あっさりと挫けて。開き直る。
この辺りの描写が上手過ぎて・・・

彼に関わる人々の造型もよくて。
わかる人には、彼のことがよくわかる。

「いえ、まじめな話よ。わたしは顔の研究をしてるの。自己中心主義者はたいてい見抜けるわ。目と口が違うのよ。あなたの口は寛大過ぎるわ、ジェリー」

「性には三種類あるのよ、ジュレミー。男性、女性、中性とね。中性の人たちは自分たちが中性だとはけっしてわからないの。彼らは努力しつづけるのよ」

「わしの年だと、一日一日を貯め込むんだ」

「これがあなたの最後のチャンスよ、ジュレミー。人生は自分で作るものだということがわかる最後のチャンスよ。あなたは人生になにも貸しを作っていないじゃないの。キャリアを妨害されたからといって八年もすねてるなんて、許しがたいわ!」

最後の台詞を言う女性こそ、彼の希望と絶望の象徴だったりする。
たいへん、魅力的な女性。賢いんですね。賢すぎるんです。
さりげなーく、恋愛要素も裏の主題になっていたりします。

えっと。最初に戻りまして。
私が好きな「こういうタイプ」というのは。
要するに「フーダニット」の本格謎解きミステリー、です。

ご存知の方も多いと思いますが、確認しておきますと。

フーダニット・・Whodunit(Who had done it) 、犯人は誰か
ハウダニット・・Howdunit(How done it)、どうやって犯行を成し遂げたか
ホワイダニット・・Whydunit(Why done it)、なぜ犯行に至ったか

他にもあるかもだし、組合わさってる場合もある気もしますが。
基本的にはミステリーって、だいたいこの分類ですよね?

私は断然、フーダニットが好きです。

「誰?誰なの?この人もあの人も怪しい」
「この人が怪し過ぎて、絶対犯人ではない」
「これだけしか登場人物いないのに、なんで見抜けないんだー!」

・・・などと、心の中で叫びながら読んでます。

これがね。結構まんまと作者に騙されるけど。
犯人が閃くこともあって。ま、ただの勘なのですが。
勘でわかった犯人から逆算して、犯行の手段もわかるんです。
ええ・・・冴えている時は。

今回は、犯人が一瞬、閃いたのに!
犯行の手段が見えてこなかったせいで。
あ。勘違いだったわ、と引き返しちゃいました。

この点は。解説に引用された解説を引用(ややこしい)。

ディヴァインは〈存在感のあるキャラクターを描くことにも、たけている〉。〈とくにうまいのが挫折した者、ハンディキャップを負った弱者、虚栄心の固まりのようなやから、悩める男女の造型〉である。〈読み手は家庭や人間関係に問題を抱えた主人公や彼を取り巻く人々に感情移入せずにはいられない。だが、これがまた曲者で、われわれはこの感情移入によって目を曇らされ、容疑者の数がきわめて限定されているにもかかわらず、真犯人を容易にはつきとめられなくなる。(中略)人物描写すら巧妙なミス・ディレクションとして用いてしまうのだから、まことに恐るべき作家というしかない。〉

この解説を引用した解説者(だからややこしいってば!)も言うとおり。
この評価はディヴァインの作風の本質を語っていると思います。
私も、まさしく、やられました。

そして。キャラクターを作るのが抜群に上手いのに。
シリーズ・キャラを作っていない作家なんですね。
うわー。潔い。かっこいい。もったいない。

私、好きなキャラクターに免じて物語の破綻も受け入れられる。
いいよ、こいつに会うために読んでるんだから・・と。
同様にキャラクターの魅力で読んでる人は少なくないでしょう。
だからこそ、キャラクターに頼らない作家には脱帽します。

(2017.11.18)
やっぱり、いいなー。好きだなぁ。ディヴァイン。
少しずつ大切に読もう(翻訳されてる作品数が少ないので)。
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  • 2018年03月25日 (日)

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