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『音楽の旅・絵の旅』吉田秀和

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ちくま文庫
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古き良き時代の旅

昔の話だな、と感じてしまう。
ぽつりぽつりと一年くらいかけて読んだ。
おかげで内容がさっぱり記憶にない。

クラシック音楽が好きな人向きではあるでしょう。
私もクラシック狂まではいかないので。
本文中の曲名を目にしても頭に曲が流れないことがあり。
となると、文章の味わいは少々減じるのでした。

私は吉田秀和の文章がとても好きなのですが。
本書は内容としてはやや軽めだろうかと思います。
それでも。もしくは、それだから。楽しく読めます。

贅沢な経験をしている人だなぁ・・・と思います。

その時、私はメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲を初めて耳にしたのだった。そうして、この曲の最初の音から最後の音に至るまで、一貫して流れている抒情性の浄らかさ、それからつぎからつぎから涌き上がり沸騰するような躍動感のみずみずしさに、いっぺんに魅せられた。それは美しいというより、もっと動きにみちた感動で私を包んだ。
 その演奏会の帰り道、私はそばをゆく人が「きれいだけど、少しセンチメンタルで女性的だよな」というのを小耳にはさんで、全く未知の人物だったにもかかわらず、いきなり「あれは青春の優しさというもので、ちっともセンチメンタルなんかじゃない。それにセンチメンタルと女性的とは関係ない。センチな男の数は女より多くとも少ないはずはありませんよ」と言葉をかえしたものだ。
 あのころが、今思えば、私にとっての朝の如き青春だった。

なんだかんだ、何十枚と貼っていた付箋。
貼られた頁をぱらぱらと読み返した中で目を惹いた一節がこれ。

私もこの曲が大好きです。
でも、それを口にするのが少々憚れるのは。
センチメンタルな曲の代表みたいに扱われているからで。

それでも好き、とはもちろん言えるつもりだけれど。
見知らぬ人にこんな風に言葉をかえす吉田氏、なんか可愛い。

そもそも。氏はとても心の健やかな人で。
永遠の青年という印象がありました。

もちろん。以下の文章はまだ老いる前のものと思いますが。
このような心境と程遠い私は心からの羨望を抱いたものです。

 幼い頃は、大人になれば、何でもやれるようになると信じていた。若い頃は、今苦しいのは若いからで、もう少しさきになれば、智慧がつき、ものごとがもっとわかるようになるだろうと期待していた。しかし、私にわかったのは、年をとればとるほど、人生、万事につけて、むずかhしくなり、若い時のようにはやれなくなるということぐらいである。
 それでいて、私はまだ生きるのに退屈しない。朝、床の中で目がさめ、これから一日が始まるのだと思うと、言いようなく、うれしい。これは子供のころもそうだったし、今も変わらない。


けれど。晩年にはこのような文章も書いておられます。
(注:本書からの引用ではありません)

何しろ私はこのごろ気分が晴れない日がよくあるので、音楽をきいてもせっかく音楽そのものから楽しい便りのようなものが発信されてきても、私の胸のどこかにつかえてしまって、ちゃんと届かない思いをすることが多いのだが、グリュミオーとハスキルのような人たちが《春のソナタ》をやさしくなだらかに歌ってくれると、「もう少し辛抱したら、また、いいこともあるよ」と慰めてくれるような気分になる。

ああ。ハスキルとグリュミオー!
私の大好きな組み合わせ。
そして、幸福感に満たされた朝が去っても、文章は軽やかだ。

氏の心の若さが。どこか「甘さ」となっていないかと言うと。
ほんの少し、逡巡する。完全に否定はできない。
クラシック音楽評論家として神格化されすぎということも否めない。

でも。別に。彼の意見や感想を絶対視しなければいいだけのこと。
本人がそもそも、そんなことを望んではいなかっただろう。

若い頃に書いたものと、晩年に書いたものとを。
そのうち、並べて読んでみたいな、と思います。

(2018.3.1)
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  • 『音楽の旅・絵の旅』吉田秀和
  • 2018年08月26日 (日)

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