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『森と氷河と鯨』星野道夫

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世界文化社
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アラスカの雄大な自然と野生動物を一心に追い続けた写真家である著者。
この本は、ジャンルとしてはエッセイ写真集という体裁だが、
その文章は、よくある写真の添えものなんかとはまるで違う。

星野さんのことを何一つ知らないとき、一枚の写真を目にした。
彼の主要な題材である、ホッキョクグマの写真。
動物の写真に興味を持ったことなどないのに、一目で強く惹きつけられた。
説明のし難い、胸に迫ってくるものを感じ、心を奪われた。

それは、写真そのものに対してというよりも、
写真を通して訴えかけてくるカメラマンの「念」のようなものだと、
そのとき、何故か、はっきりと感じた。
それが、具体的にどういうものなのか、わからぬままに・・・。

星野道夫さんの本を読むと、その謎は一気に氷解する。
私は、幾たびも、著者の言葉に打たれ、涙ぐんだ。

飾らない、抑制の効いた、しかし、深く心に染みとおってくる文章。
読んでいると、月並みだけれど心が洗われるような、
ううん、そんなんでは足りない、生まれ変わるような気がする。

厳しい大自然のなかで、なにも構えることなく、
そこに溶け込んで立つ星野さんの姿。

「ワタリガラスの伝説を求めて」と副題にあるとおり、
彼はその伝説を追って、旅をする。
たくさんの消えゆくインディアンの種族に出会い、対話しながら。
魂を巡る旅。伝説のなかに息づく神秘。多くの絶望と救済。

彼は何万年という昔に軽々と思いを馳せる。
彼の「時」の観念は、地面をしっかりと踏みしめながらも
常に宇宙的な広がりで遥か遠くまでを見据えている。

こんな人がいる、と思うだけで私は涙が湧いてきてしまう。
こんな人がいた、と過去形で言わなければならないことが無念でならない。

ワタリガラスの伝説を追う旅の途中、シベリアの地で、
彼はクマに襲われて帰らぬ人となる。

この本は彼の未完の遺作。
彼はどのようにこの物語を終えるつもりだったのか、
巻末に添えられた彼の英語混じりの日記を読み、また涙ぐむ。

(2010.7.28)
彼の作品はどれも素晴らしいのですが、この本は最高傑作だと思う。
人間の、いいえ、生物の、いいえ、宇宙の、「たましい」のことを
感じとる力の貴さと、その力を衰退させ続けて生きている現代人
(自分も含む)の行く末について、考えさせられる。
・・・突きつけられるものは厳しいのに、限りなく、優しい。



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Author:彩月氷香

とにかく本が好き
読書感想がメインですが
時々、写真や雑記も。

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  • 『森と氷河と鯨』星野道夫
  • 2010年07月30日 (金)

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