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マルドゥック・ヴェロシティ2  冲方 丁

2010.08.13 冲方 丁   comments 0
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ハヤカワ文庫JA
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前作を読んだ際「精神状態のいい時に続きを読みたい」と感想を書いた。
それから、まもなく、決して精神状態はいいとは言えないのに読んだ。

・・・ああ。疲れた。
凄絶、とか血も凍る、と表現できるような血腥さなら、或る意味慣れっこだ。
しかし、本書でそのようなシーンに遭遇するたびに私が思い浮かべる言葉は、
「えげつない」である。いや、「えげつなさ過ぎる」。

主人公をはじめ、こちら側の人間は、
とてつもない改造を施された肉体の持ち主であるとはいえ、正気である。
一方、敵は、やることなすことの残虐さは勿論のこと、
まず彼らの見た目が狂気そのもののグロテスクさ。

「化け物たちのサーカスだ」と、
そいつと戦う羽目になった一人が叫んだのも無理はない。
「かんべんしてくれ」そりゃ、そう言いたくもなる。
まったく、私も泣きそうになりながら、そう唱えた。

作中に「血の匂いがする」という文章を見つけると、
肩に力が入り、「来るぞ、来るぞ、来るぞ」と身構える。
そりゃ、疲れるよ。
私、なんで、こんな思いして読んでるんだろうと疑問も湧くよ。

眠ることも一切必要がなく、重力からも自由な体を持つ主人公、ボイルド。
その彼から片時も離れることのない、知能を持つネズミ、ウフコック。
ウフコックは、何にでも、一瞬で変身することができる。
普段はボイルドの手袋の姿、心許した人の前では衣服を着たネズミ、
そして、闘いの時はボイルドと一体化した、最強の武器。

強靭すぎる肉体に潜む「狂気」と葛藤しつづけるボイルドの心の闇と、
武器である自らの存在に苦悩するウフコックの繊細な心優しさ。
その二人の互いを思いやる気持ちの深さ。

そう。私は彼らが好きなので。
他にもたくさん、愛すべき人々が登場するので。
だから、続きが気になって・・・怯えながら読んでいる。
アンダーグラウンドの闇がどんどん、深まっていくことに。
物語の行方のどうしても光明の見えないことに。

ここから少し脱線しますが、私の「恐怖と想像力についての考察」、
などにご興味のある方は、続きをどうぞ・・・。
けっこう長いので、ご注意を。



それにしても、こんなに心の底からぞっとする感覚は久しく感じたことがない。
残虐な拷問、殺人ポルノ・・・だがしかし、そんなに珍しい素材ではない筈だが。

描き方のせいか?しかし、格別、描写が優れているようには感じない。
気になって気になって、思いを巡らすほどに、
さほど特別な残虐さではない、という結論に達する・・・
ならば、何故、こんなに怖い?

そこで、気づくことが一つ。
自分が普段から自らの想像力をセーブしている、という可能性。
もともとホラー映画を観ることもできない私なのに、
何故、残酷なシーンの連続の小説でも読めるのか、謎だった。

よくよく考えれば、これが書物の利点で、TVや映画などの映像と違い、
自分の苦手なシーンは想像力を抑えて、さっと駆け抜ければいいわけである。
いや、ゆっくり読みながらでも、適度にピントをずらしておけばいい。
ソフトフォーカスをかけても良いし。

そう。殺戮の場面では私の想像力は抑制されている。
自分の受け止めれる範囲の映像しか生み出さないようにと。
・・・長年の読書のなかで無意識に習得した技。

この小説は、その私の調整機能を壊すのだと思う。
だから、私の許容範囲を越えた「映像」が再生される。
そのことは冲方 丁氏の手柄だと言ってもいい。
彼の文章力が殊更に優れているとは、思わない。
ただ、独特な文体が、その世界に引き込みやすい工夫の一つなのは間違いない。

主人公がそもそも狂気の引力を常に感じており、
その緊張感が伝染してくるような描かれ方をしている。
狂気には狂気で対するしか、勝つ方法がない、と彼は感じているのだから。
「透徹に、呵責なく、酷然と無意識に、自分を虚無へ投げ込む行為」
・・・そのような境地で彼は闘って勝利するのだから。

知らぬ間に、悪夢へと強く引き寄せられるような舞台が、
巧妙に緻密に作り上げられているのだ。
それで、悪夢と間合いを取ることが出来にくくなる。

と、いうわけで。この小説における私の悪夢の謎は、大雑把だが解けた。
そこで新たに、不吉な疑問が生まれる。

私は、恐怖を生み出す対象以外にも、想像力のブレーキをかけ、
自分に安全なようにコントロールしつつ読んでいるのでは?という・・・

考えてみれば、それは必要悪ではあるのだろう。
若い時は想像力のアクセルを全開に踏んで、衝突事故を起こしても、
そして、そのために日常生活が壊れても、平気だった。
現実に戻れない日が数日続いたって、学生の身分なら何とかなる。
食事も食べられなくなって、親を心配させても、へっちゃらでいられる。
・・・若い、ってそういうものなのだ。

大人になったら、生活を壊さない範囲でしか「読書」は出来ない。
本の世界から帰ってこられなくなったから、と仕事を休むわけにもいかない。
だから、きっと、初めからブレーキは踏まれているのだ。
ああ、なんだか、つまらないな・・・。

たくさんたくさん本を読み過ぎた結果、無意識に自己防御のための、
きわめて有能なコントロール機能が発達してしまったような気がする。
それじゃあ、本当に真の意味で「読んだ」とは言えないのに。

また一方で、自己を無にして、物語の世界にダイブするような読み方だと、
何一つ客観視することが出来ず、ただ、主人公もしくはその世界観、
もしくはその思想に「同調」するだけなのであって、それはそれで、
極めて危険かつ、「幼稚」な読書であるとも思われる。

でもね。私にとって読書の一番の魅力は、「現実を忘れる」ことなのだ。
そういう意味では文学でも、娯楽作品でも、哲学でも私の中で貴賎はない。
その世界に引きずりこむような強い力のある本が、結局、最上のものなのだ。

そして、おそらく、大半の人にとってもそうだと思うのだけれど、
天国の夢よりも、地獄の夢の方が、引力が遥かに強い。

私の「頭を使わない読書スタイル」、根が深そうだなぁ・・・
読書に正解、はないとは思いつつも、
どう読むべきか、ってつい考えてしまう・・・

想像力が豊かなのがいい、と一概には言えないし。
それが創造につながればいいのだけど、そうでなければ、
現実逃避のための妄想に終わる恐れも大なわけで・・・。

さて。
冲方氏は、この悪夢の結末をどこへ運ぶつもりなのだろう。
しんどいけど・・・追いかけるしかない。
さっそく、「3」を予約だ。

最後まで読んで下さった訪問者様、いつもながら有難うございます。


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  • 2010年08月13日 (金)

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