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サマータイム   佐藤多佳子

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新潮文庫
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夏に、ぴったりな気がして手にとった。

読み始めてみて、眩しいほどの澄んだきらめきに一瞬、たじろぐ。
しかしすぐ、12歳の姉と11歳の弟、そして二人が出会った13歳の少年の、
短い夏の思い出の中に吸い込まれるように入りこんでいく。

鮮やかな情景・・・そこには、子供の目線でしか捉えられない、
光と色彩と風と温度のようなもの、大人が見るのとは違う夏の気配がある。

心優しい弟、進。気が強く癇癪持ちでとてもキレイな姉、佳奈。
とてもキレイ、のところを省けば、私も似たような「姉」だったかもしれない。
よく弟にあれこれと命令していた記憶がうっすらと甦る・・・。

彼女が自転車を買ってもらった弟に対して、
これはサベツだ。私は、ずっとずっと小さい時から、弟が自分よりいい思いをしないように、気をつけてみはっていたのだ。
と心につぶやくところ、同じ年頃の私とあまりにそっくりで、笑ってしまった。

自転車どころかピアノを買ってもらったのに、その有難みが全く理解できず。
壊れたら新しい自転車を買ってやる、という父親に
「じゃ、すぐにこわすわ」と本気で(!)言う。何て、わがままな・・・。

そんな姉弟が、広一という、父親も左手も事故で失った少年に出会う。
3人の夏を描いた表題作(進の視点)に続く、
「五月の道しるべ」(佳奈の視点)、
「九月の雨」(広一の視点)、
「ホワイト・ピアノ」(再び佳奈の視点)。

4作ともピアノが重要なモチーフとなっていて、
読んでいる間、ピアノの音色が背景に鳴り響き、
作品の持つリズムを増幅してより生き生きと伝えてきた。

「九月の雨」を読みながら私は泣いていた。
私と共通点はないように思える広一の、何かがとても哀しくて。
痛ましくて、美しくて。でも羨ましくて。
ううん、理由はやはり、よくわからない。

言葉にできず押し殺した沢山のものが、人の心には眠っている。
そのことを広一の姿が思い出させるのかもしれない。

ジャズピアニストの、彼の母親もとても魅力的で。
世間一般の規格を外れた母を持つ息子の苦労を案じつつ、憧れてしまう。
しかし、この二人の毅然とした淋しさは、胸にこたえる・・・

最後の一篇を読み終わった時もまた、
私は頬を涙が伝わっていくのに首を傾げながら、
瑞々しく爽やかなのに荒々しい程の力強さをもった物語の余韻に浸りつつ、
重なるように再生される自らの思い出の数々に為すすべもなく翻弄され、
頭の中にきらきらと降るピアノの音色に、呆然と耳を傾けていた・・・。

(2010.8.28)
感傷的な感想でごめんなさい。
作品そのものは、さらりとした風合いの小説です。
読むなら、絶対に夏がおすすめな本。
3人が「海」を食べるシーンがとても印象的。


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  • サマータイム   佐藤多佳子
  • 2010年08月31日 (火)

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