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『マルドゥック・ヴェロシティ3』冲方 丁

2010.10.31 冲方 丁   comments 0
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ハヤカワ文庫JA
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残虐シーンの数々に震えながら読み続けてきたこのシリーズも、
とうとう、最終巻。さぁ~よぉ~し。読むぞぉ~~っ!

かなり、身構えて読み始めました。
期待は裏切られず、しょっぱなから、ひぇ~、ぎゃ~な場面。
私の恐怖心のメーターがブチ切れて無感動になったくらいな、凄まじさ。

1、2と読んできて、ずーっと思ってた。
どうして、ここまで、やるの?って。

意思のある武器として生まれて、哲学的に自らの「有用性」を
考え続けるネズミと、虚無と破壊に惹かれ続ける男のコンビ。

彼らの活躍の舞台であるシティも、その他の登場人物も、
やや異色なヒーローもの、カッコ良く感動的なSFの要素を、
とても魅力的かつバランスよく備えている。

この異常な暴力と残虐さえなければ、抜群に楽しい娯楽小説なのに。
しかも、哲学の要素すら盛り込んで、作品の深みも充分に出せるのに。

恐怖や残虐を、絶妙なスパイスとして巧みに使いこなすことくらい、
著者になら、いとも簡単にできるはず・・・。
読者離れさえ引き起こしそうな、この病的な、醜悪と残虐を、
執念深く描き続ける・・・そこに、どんな意図が潜んでいるのか。
私は、それが知りたいがために、
夥しい拷問と死と裏切りに血塗られたこのシリーズを読んできたのだ。
吐きそうになる血腥い描写の連続に耐えながら・・・。

冲方さ~ん、これ読むの、結構、激しく、拷問ですよ~。

でもね。最初に冲方さんに出会ったのが「天地明察」という、
とっても爽やかな読後感の、清々しい作品だったものだから。
そのギャップで、いっそう沖方さん本人に興味を抱いたの。

残虐なシーンを楽しんで書いてるとはとても思えないし・・・。
きっと、自分でも「やり過ぎ」ってわかってる筈なのに、って。

限界を超えたい?・・・一体、何の?
確かに見たこともないような残虐と破壊と醜悪の惨劇の嵐だけど。
それに、何の意味が?

意味なんかない、娯楽としての暴力なんて珍しくもない、と。
そう切り捨てるには、作中に哲学の断片が散らばっていて。
それでいて、万人も感情移入できる苦悩の形からは、
何が何でも逃走してやるという、頑なな拒絶の意思が漂っていて。

ほんと、読者を置き去りにして、どこへ行くんだよ・・・。

2巻を読んだ時、きっと次はさらなる惨状が待っている、と予感し、
覚悟はしていたので、その点、驚きは無かった。
私は、悪夢の行きつく先を見届けたい一心で死体の山を
無我夢中で乗り越え、フルスピードで読み続けた・・・。

これでもか。これでもか。と。
救いのない醜悪と破滅が繰り広げられ、
最初からずっと暗示されている虚無へ向かって、
主人公のみならず、物語そのものが加速しながら走り続ける。

怖い。哀しい。切ない。苦しい。でも、もう、何も感じない。
何を感じていいのか、わからない。

そして。パタリ。
どんな物語も、終わりは突然にやってくる。
呆気ないほどに全てが、虚無に飲み込まれた・・・。
そして、ただ、虚無への軌跡だけが、鮮やかに残された。

(2010.10.30)
「精神の血・・・その最悪の輝き」と題された、あとがきの冒頭。
「あらわになった醜悪というのは、楽観に至る決着の一つではないかと思う」
・・・私が感じたことが見事にこの一文に集約されている! 彼はこうも語る。
「何度も中断し、なぜ書かなければいけないのかを自問し続けた。『何を・どうやって』書くかはよく悩むが、『なぜ』について本気で悩んだのは本書が初めてである。」と。

自らのペンの生み出す醜悪と残虐に苦しみ抜いた彼に、盛大な拍手を。

迂闊に人には勧められない本です。読むのが、しんどすぎるから。
まともな神経をしてたら拒絶反応を起こすと思うから。
特殊な文体を嫌う方も多いでしょう。・・・でも、傑作です。


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  • 2010年10月31日 (日)

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