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明日の記憶  荻原 浩

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光文社文庫
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もっと、お涙ちょうだいなストーリーかと思っていた。
私は、泣かなかった。泣けなかった。

ある意味、病気慣れしている私。さほど病気を恐れてはいない。
もちろん癌になったら・・・と考えると怖くないとは言えないけれど。
それよりも、アルツハイマーか、痴呆症になることが恐怖だ。

おそらく、誰でもそうだろうと思う。
立派に生きてるなんて、とても言えない私でも、
記憶と自己の尊厳だけは失いたくないと願っている。

進行していく若年性アルツハイマーの症状を本人が語る形式。
なんと、残酷なことだろう。意思も努力も通用しない・・・
その記述の克明さに、きっと誰もが一番恐れていることが、
くっきり浮かび上がって、とてもとても怖くて、怖くて。

加速しながら消えていく。大切な人の名前も。顔も。思い出も。
それを自覚しながら、なすすべもない。否、足掻いてもどうにもならない。

それでも。何かは、残るのだろうか。悲痛な空白のなかに。
どうしても。光を、優しさを、救いを、意味を求めてしまう。
それは支える側の気持ちと思い出のなかに生きている、と。
そんな甘いものじゃないとわかっていても、信じたい。

それでも、哀しみが薄れはしないけれど。
自分か身内に、いつでもあり得ることだと思うから・・・
あちこちで起きている、ありふれてしまった現実だと知っているから・・・

やっぱり。時間差で涙が湧いてきた。
今度は止まらなくなってしまった。考えれば考えるほど。
想像上の共感ではなく、鋭く突きつけられる現実に変換されて、
胸に迫るものが重すぎて・・・壊れていくものが大き過ぎて。

自分のことを忘れてしまった親族に、笑顔を見せられる、
そういう自分でありたいと、それだけを思う、せめても。

娘でも、もしくは妻でもなくなってしまっても。
他人のものでも、笑顔は必ず心に届くはずだから。
積み上げた月日は、もはや相手の心に無くても、
新たに進行している「今」、この瞬間は在るのだから。

(2011.2.27)
では、自分自身が、この病になったなら?
それはもう、考えてどうにかなるようなものではない。
消えていく記憶を自覚している日々を、どのように生きるだろう?
ただ自分なりに精一杯、という平凡な答えしか出てこない。
無意味かもしれないけれど、覚えているうちに「感謝の手紙」を
書いておきたいかな・・・それこそ三文小説になってしまうけれど。



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あたしもお涙ちょうだいものが苦手なので出来るだけ回避しているのですが、別の本で「苦いけどさわやか」とこの本の紹介をしてました。
なので読んだのですが・・・
確かに苦いけど爽やかですね。
ラストの奥さんの笑顔、割り切ったというか覚悟を決めたというか・・・
やっぱり本人も大変だろうけど奥様は更に大変だろうなと。
そんな気分になった1冊でした(^^)
2011.03.02 08:55 | URL | igaiga #JyN/eAqk [edit]
施設へ亡父を見舞いにいったとき、調子よくいろいろと会話していて、帰り際に施設の方へ「弟です」と紹介されたときはがくっとしましたね。

それはともかく、あまり「お涙頂戴」風の描き方をする作家さんではないですね。さらりとユーモア混じりに描く。ほんとうに、上手いです。
どんな題材で書いてもおもしろい。プロ中のプロの作家さんだと思います。
ブログを始めた頃に読み始めた作家さんで、感想の数がもう13になってしまいました。最近の作品を読んでいないので、そろそろ萩原浩さんにまたもどろうかな、と思っています。
2011.03.02 17:49 | URL | ディック #JyN/eAqk [edit]
こんばんは~。
荻原浩さんの本はけっこう読んでます。
「押し入れのちよ」「誘拐ラプソディ」
「オロロ畑でつかまえて」「あの日にドライブ」「千年樹」など。
「明日の記憶」は呼んでないですが、映画では見ましたよ。
好きな作家の一人です。
2011.03.03 23:46 | URL | かっぱのしんちゃん #JyN/eAqk [edit]
彩月さん、

素敵な感想ですね。
この映画を観たのが4年前、いつものように出張の飛行機で、目を真っ赤に腫らしたのを覚えています。

主人公に自分を重ねて見てしまうんですよね。
記憶がどんどん遠ざかっていって、最後は何も分からなくなる。
ちょっと怖いと思ったし、もし自分がそんな病気になってしまったら、どうなるんだろうって。

心はどこに行ってしまうのだろう?
自分の中にはなくても、誰かの中で生き続けるのだろうか?
いや、記憶がなくなったとしても、心は自分の中にあるのだと信じたい。
わずかでもいい、光のあるところに。。。。

私も想像上の共感ではなくて、ぐさりと突き刺さりました。
2011.03.04 00:48 | URL | 速読おやじ #JyN/eAqk [edit]
あ、そうです。そうです!
自分の感想では、そこんとこ書き漏らしてましたが、
主題の重さに押し潰されない爽やかさがありますよね。

ラスト、私もああ、いいなぁ・・・と思いました。
未読の人に、その感動をとっておきたくて、
語るのを控えたんですけど・・・。

うん。あの笑顔がいい。絶対、私も笑顔でいよう!
って、まだ見ぬ未来の決心をしちゃいました(笑)

奥さんには、この先の苦難が待ってますものねぇ・・・。
それを思うだけで、また涙が湧いてきちゃいます。
2011.03.04 12:44 | URL | 彩月氷香 #- [edit]
うう~ん。それは、かなり気落ちしますね・・・
親族だと理解されていた、のが少しは救いなのでしょうか?

「お涙頂戴」風でないからこそ、伝わってくる想いの足場が
確かなんだなぁと感じます・・・お上手ですよねぇ。

私は、何か1冊、過去に読んだ気がするのですが覚えてなくて。
ディック様のとこに、お邪魔して参考にさせてもらいますね。
この先も読みたいなと思う作家さんですので。
2011.03.04 12:52 | URL | 彩月氷香 #- [edit]
そうなんですね~。

私、何か、読まず嫌いしちゃってたみたいです。
しかも映画(観てないんですけど)のイメージで、
特にこれは「あんま読みたくないな」と思ってて。

なぜか、とつぜん気まぐれで読んだんですが。
自分の思い込みを反省しました・・・
時々あるんですよね、こういうコト。

また、近々読んでみますね~。
2011.03.04 12:56 | URL | 彩月氷香 #- [edit]
映画も、間違いなく、泣けちゃうでしょうね・・・。
ほんとに、ぐさっと来ます。
ええ、心は完全にはなくならない、って信じたいです。
時々、懐かしさを感じる瞬間もあるんだ、って。

同時に、支える側の思いも想像するだけで苦しくて。
だから、いつも、というわけにいかなくても、
絶対に笑顔を忘れたくない、と強く思いました・・・
2011.03.04 13:02 | URL | 彩月氷香 #- [edit]


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時々、写真や雑記も。

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  • 明日の記憶  荻原 浩
  • 2011年03月02日 (水)

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