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『響きと鏡』吉田秀和

4122017084響きと鏡 (中公文庫)
吉田 秀和

(絶版のため、画像なし)


先日、吉田秀和の文章が私の理想、と褒めちぎりましたが。
思えば、読んだのがかなり昔のことで・・・。
今もその気持ちに変わりがないのかどうか、不安になりました。

この「振り返り読書」。おそろしいんですよね。
たまに、「なんで、そんなに感動したのかわからない」ということがあり。
それが自分の感受性の衰退なのか、人間的成長なのか、
しばし悩みつつ、なんとも心もとない淋しさに襲われます。

今回、探し出して、読んでみた本書。
クラシック評論集ではないので、クラシック以外のことも書いています。

で。長く長くなりますが。強く心を打った一節を以下に引用。
自己満足気味なので・・・無視して下さっても、かまいません。
いえ、読んで欲しい文章だから引用するのですが、あまりに長いのです。

 読者が、なじみの名によるなじみの作風なり論旨なりに、くりかえしふれるのを好む傾向を持つのは事実である。人間はくりかえしを離れるのに、勇気がいる。ある作家、ある著述家、ある学者の著作を、つぎつぎ読む人の存在は、この真実を土台にしている。しかし、その作品なり著作なりが、その作者の究極まで考えたものが書き込まれて出来たものだったら、書く方としては、そう何度もくりかえせないのではなかろうか。何度もくりかえせるとしたら、それは、何か問題が未解決のまま残されたからだろう。その本の全部が中途半端というのではない。しかしこれ以上書けないところまでつき進められていたら、それはくりかえせない。そうして、そういう場合は、読者の方も、同じようなものをくりかえし新しい名の下に発表されるより、同じ著作を何度も何度もくりかえし読む方を選ぶのではないか。そういう作品にふれたいと望むのではないか。小説家夏目漱石のあとを追ってみると、全体として一人の人間の作品としての一貫性と持続性をもつ一方で、つぎつぎと展開があり変化があり、しかもそのそれぞれが、その時点で、いけるところまでいった作品としての結晶度と完成度をもっているように見える。ドストエフスキー、ヘンリ・ジェームズ、トーマス・マンだって同じだ。彼らの作品は数においてそんなに超人的ではない。しかし、全体として、すごく重量度がある。ボードレール、マラルメ、プルーストといった、いわば一巻の詩集、一つの長編しか残さなかった詩人、文学者は別としても、どんな天才だって、ある限度を出るのはむずかしいだろう。
 日本でこんなにたくさんの本が出るのは、ジャーナリズムに「反復」についての特に強い好み、あるいは「くりかえし」に対する忌避が欠けているのと、筆者の方でも、自分の仕事を一種の職人芸と考え、註文があれば、それに応じて、最善の出来栄えを示すことが深い満足の源泉になっているからではなかろうか。


(2011.5.29)
多過ぎる本の海を泳ぐ私に、痛いほど響く文章でした・・・。
真の作家は、こうあって欲しいという思いと、現代の出版状況への苦言と。
ああ、まさに。まさに。私の思いは同じ・・・特に、ここ。
「これ以上書けないところまでつき進められていたら、それはくりかえせない」
そういう、つきつめられた作品を、やはり出来ることなら読みたい。


関連記事

なんとなく、最近ちらちらと頭をかすめていたことが
吉田秀和氏の言葉でぽんと膝を打ちたい気持。
決して長くはないですよ。
よい文章を拝読し、感謝。

多くの作家が初期の作品にもっとも強い輝きを見せるのは
そういうことなのかもしれないなあと思いました。

生きてゆくということが
最期の瞬間まで成長し続ける可能性をもったものであるなら
もともとひとはくりかえし自らの生を自分に問うてゆく、
そしてその問いに答え続ける存在なのかもしれませんね。
くりかえさざるを得ない、未完の存在から逃れられない、という。

うまく表現できずごめんなさい。
吉田氏の言葉から、文章にとどまらずいろんなことを考えることができました。
よい記事をありがとうございました。感謝。
2011.06.30 21:54 | URL | ハル #jjURaDtE [edit]
私も、これを読んで、「ああ!」と腑に落ちるものがありました。
文学について語られていますが、実は音楽の話につながります。
芸術全般に通じるし、いえ、生きることそのものを語っている、
と、そう私も思います・・・。

自分自身を省みてもよく、わかります。
まっすぐ前進し続ける、ってどうもピンと来てなかった。
くりかえし、くりかえし奏でる音色。でも毎回全く同じではなく。
ちょうど、変奏曲のように・・・。

難しい言葉や言い回しをひとつも使わず、
よく、これだけのことを表せるものだと、感心します。
吉田氏の芸術を見る眼差しと表現力は、私の憧れ。

要約するよりも、丸ごとそのままに読んでもらおう、と。
少し、不安な試みでしたが・・・。
ハル様のように感じて下さった方がいると知り嬉しいです。

本当にいいものは、ちゃんと伝わるものなのだなぁ。
自分が良いと思う物には自信を持とう!
(持ち過ぎるのも問題なのですが・・・)

好き過ぎるものを紹介するのは、不安になりますね。
ありがとうございます。不安が薄れました。
2011.07.01 00:08 | URL | 彩月氷香 #b98C2Btc [edit]


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  • 『響きと鏡』吉田秀和
  • 2011年06月30日 (木)

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